山賊物語 2011年10月28日

山賊物語 2011年10月28日

 

合戦場  夏  夕方

    鈴虫が鳴いている荒地。

  合戦で敗れた武士の累々たる死体

  (ムクロ)の数々。

  目を見開き、呼吸は弱く、たった今亡くなる武士。

  ムクロの間を歩いている子供の足。

ムクロの中を歩いている兄弟3人。

  長男(吾郎12歳)次男(与平11歳)

  三男(ふじお10歳)

  ムクロの周りをハエが飛んでいる。

  手ぬぐいを口に巻き、吐きそう。

  口を押さえている。

  こらえきれず、吐くふじお。

  それを見た、他の兄弟も吐く。

  3人そろって、ゲロを吐く。

  吾郎は、棒でムクロを起こしている。

  上向きになったムクロの腐食した顔。

  吐こうとするが何も出ない。

  かわりに激しい咳。

  与平は、ムクロを棒でひっくり返すと、

  目、鼻、口から、大量の蛆虫が出てくる。

  思わず、叫びその場から逃げ出す兄弟。

 

僧兵寺 墓場 深夜 

  兄弟が大きな碑の後ろに隠れている。

吾郎「坊主は朝が早いから、夜は寝るのが早

 いんだって親父が言ってた」

    墓の周りを物色する兄弟。

  墓には、供物(まんじゅう、おにぎり)

  がある。

与平(小声で)「おい、あったぞ」

  ムシャムシャ供物を食べる兄弟。

  思わず、むせるふじお。

  その口を閉じる吾郎。

 

盗人村 広場中央 昼

  ジジイ(自称村長)のまわりを取り囲む人々。

  お互いひそひそ話をしている。

  お互いに耳元で話し合っている。

  兄弟も集団に加わろうとする。

  話を盗み聞きしようと、割り込んだり、

  背伸びをする。

  大人たちは、無視しているか、煙たい顔

  をして、妨害する。

  ふじおが吾郎を肩車する。

  驚く顔の吾郎。

 

  ジジイの手には、印籠がある。

  袋の中から、出てくる数々の品。

 

  村人はふと真横を見る。

  聞き耳を立てている吾郎。

  村人に突き飛ばされる。

  その拍子にバランスを崩し倒れる。

  吾郎とふじお。

吾郎「痛てーちくしょーなにすんだ」

  無視して話を続けている村人たち。

 

山中 けもの道 昼

  歩いている兄弟

吾郎「ジジイたくさん持っていたな。ありゃ

 結構高いな・・・」

与平「ああ見たぜ・・・うまいことやりやが

 ってよ、あの腐れが」

吾郎「あのジジイどうやって」

与平「なんかあるな・・・」

  ふと立ち止まり、懐から地図を出す。

地図を広げる昭一。

  地図を覗く、与平とふじお。

吾郎「地図だとこの辺りなんだけど」

と言い、風景をぐるりと見渡す。

与平「ああ」

  地図と場所を確認している。

  地響きのような音。

  兄弟のほうに音が近づいて来る。

  音のする方向を見る兄弟。

吾郎「やっやばい、イノシシだ、こっちに来

 るぞ!走れ!」

  逃げる兄弟。

  昭一とふじおは逃げるが、与平は、

  はたと立ち止まり、イノシシに向けて弓を放つ。

  跳ね返される弓。

  与平に突進するイノシシ。

  間一髪、草の中に身を投げる与平。

  イノシシが通り過ぎる。

  後に、ウリ坊が数匹走り去る。

吾郎の声「与平!与平!大丈夫か?」

  温泉の中にどぶんとつかっている。

与平「兄じゃ!あったぞ!あったぞ!」

吾郎「なにがじゃ」

与平「湯だよ」

   地図に印をつける昭一。

うどん屋 外 昼

  兄弟がうどん屋を外から覗いている。

  店の中でおいしそうにうどんを食べてい

る旅人の男。

  兄弟は、ゴクリと生唾を飲む。

 

同 夕方

  まだうどん屋の中を覗いている兄弟。

  のれんを外す、うどん屋娘(おゆき)

  飢えた兄弟と目が合うおゆき。

おゆき「もういいよ・・・」

  兄弟は、一目散に店内に入る。

 

同 店内

  おゆきが一杯のうどんを兄弟のところに

  持ってくる。

  おいしそうなうどんと一つしかない箸。

  じゃんけんをする兄弟。

  与平が勝ち、箸を取ると麺をすくい口に

運ぶ。

  ふじおが恨めしそうに見ている。

  ふじおは与平の箸を取ると、どんぶりを

  わしづかみして、うどんをすする。

吾郎「おまえ、たいあげるな」

  どんぶり椀で顔が見えないふじお。

  ほとんどないどんぶりの中身。

吾郎「おまえ全部たいあげるなっ言ったろ!

 どうしてくれるんだよ・・・」

  吾郎は、ふじおに馬乗りになり殴る。

  あきれているおゆき・

ふじお「ごめよ兄じゃ・・・もうしません、

 許してけろ」

吾郎「もうしませんって。おまえ、何度同じ

 こと言ってんだよ」  

 

焼かれた村 家々 夏 

  村の家々が焼かれ、燻っている。

  煙も収まりかけている。

  ふじおが歩いている。

  煙の中から少女(オタエ)が一人立っている。

  子犬を抱いている。

  ふじおは煙の中の少女を見ている。

  なにも言わずふじおは、オタエに近づき

  竹筒の水をあげる。

  オタエは少しためらいながら飲む。

  子犬にも水をあげる。

 

同 焼けた家屋内  

  ふじおは、焼けた家屋の中に入り、物色している。

  その光景を見ているオタエ。

同 焼かれた村 中央

  吾郎と与平がいる。

  ふじおが来る方向を見る与平。

与平「おい、おいなんだよ、おまえ何拾って

 きた」

ふじお「おら、なんも拾ってきてねーぞ」

  といって割れた茶碗とお箸を見せる。

与平「後ろだよ、後ろ・・・」

  オタエが子犬を抱え立っている。

ふじお「あっあーあれ?」

与平「わかってんだろ、村のしきたりで連れ

 て帰るなって、ジジイが言ってたろ」

ふじお「おら、なにも連れてきてねーぞ」

吾郎「ここには、何もねー行くぞ」

 

山中 道

  坂を下り、坂を上る。

  眺望のいい石の上に座り、

  休んでいる兄弟。

  与平が後ろを振り向く。

  坂を登るオタエの姿。

与平「ちぇっ、あのガキついてくるぞ」

吾郎「よし、わからんように隠れて行こう」

 

同 けもの道

  草の中をはいずる。

  木々の間を抜ける。

  岩を越える。

  湧き水を飲む兄弟。

  吾郎は、周囲を見渡す。

  緑の森と青い空

 

川辺 夏の午後

  川に石を投げて遊んでいる兄弟。

  対岸に石が跳ねるのを競っている。

  与平の投げる石は、すべて対岸のまで飛ぶ。

  自慢げな与平。

 

同 

  吾郎と与平は、竹をナタで裂き、

  モリを作る。

  兄弟は、着ている服を脱ぎ裸になり

  歓声を上げ、競い合うように川の中

  に飛び込む。

 

同 川中

  水面から見える魚。

  兄弟たちは、水面から魚の動きを

  追っている。

  与平は、魚の動きを見極めると、

  竹やりを水中に素早く突く。

  竹やりの先にかかった魚。

  竹やりを太陽に掲げ、青空に魚が

  映える。

  ふじおに魚を投げる。

  吾郎は、魚の動きを見て竹やりを

  突くが逃げられてしまう。

  何度やっても、うまくいかない。

  吾郎は、ふーとため息をつき、

  与平を見る。

  与平は、簡単に次々と魚を捕らえ、

  ふじおにホイホイ投げる。

  ふじおは袋を広げ、右へ左へ魚をキャッ

  チする。  

 

同 川辺

  魚を抱えているふじおが岸に歩く。

  前から、ワンワンとシロがふじおに、走ってくる。

ふじお「あー」

 

同 川中

  吾郎と与平が、振り向く

吾郎と与平「あー」

 

同 川辺

  うれしそうに尻尾をふるシロ。

  オタエの声「シローシローどこ、

  どこ、(半泣きの声)」

 

同 川中

  吾郎と与平は顔を見合わせて、ため息。

 

同 川辺

  シロは、オタエの元へ走る。

  草むらからオタエが出てくる。

 

同 川中

  兄弟は、夢中で魚とりをしている。

 

同 川辺

  オタエ、兄弟たちをジッと見ている。

 

同 川辺 イケス

  イケスを覗くオタエ。

  魚がたくさんいる。

  オタエは、腕まくりをして魚をつかむ。

  置いてあった刀を持ち、平たい石の上で

  テキパキと魚をさばく。

  石で炉を作るオタエ。

 

同 川中

  オタエをぼーっと見ている兄弟。

 

同 川辺 夜

  炉の中には、串刺しにされた魚がある。

  兄弟は炉を囲む。

  バチバチと炉の火が跳ねる。

  沈黙の4人が炉を囲んでいる。

  オタエは無言で、与平に焼けた魚を渡す。

  与平は、少し戸惑い、魚を受け取り魚を食べる。

与平「うめー」

   オタエは吾郎とふじおに魚を渡す。

吾郎「こりゃ、うまい・・・」

   ふじおは無言でムシャムシャ。

   兄弟は、夢中で食べている。

   緊張して兄弟を見ているオタエ。

吾郎「おまえも食えよ、うまいぞ」

   オタエ、初めて笑顔になる。

オタエ「おおきに・・・」

   おいしそうに食べるオタエと兄弟。

 

同 川中

  月に照らされた水面を飛び跳ねる魚。

 

同 川辺

  満腹になった4人は、ボーっとしている。

  炉の炎。

  夏虫の音が山間の谷に響く。

与平「ここのは、いつも肥えてるな」

吾郎「ああ、なに食ってんだろな。俺たちは

 いつも飢え死にしそうなのに・・・」

与平「ムクロが餌なんだよ・・・」

  

  合戦場で見たムクロの蛆虫

  (イメージ)

 

  思わず吐いてしまう、ふじお。

吾郎「馬鹿な、はははは、そんなもの食うか

 よ(笑)」

  吾郎と与平は大笑い。

 

同 川辺 ズーム

  対岸の岩陰には、白骨化したムクロ。

  そのムクロの間を泳ぐ魚。

 

街道

  多くの旅人が行き交う光景。

 

同 木陰

与平「なあ、あの格好をみろよ」

吾郎「ありゃ、金を持っているな」

 

街道

  こぎれいなしゃれた服装の中年。

 

同 木陰

与平「ああ、あのキセルにしても、着ている

 モノから上等だぜ」

 

同 街道

  派手な服装の肥った中年と小僧。

  疲れている小僧はその場にへたり込む。

  中年は小僧にゲキを飛ばす。

 

同 木陰

与平(指を刺し)「なあ、あれは」

吾郎「おあ、おあつらえむきだな・・・」

  

同 街道

  荷物を持っている兄弟。

  前から、南無阿弥陀仏と唱えながら

  歩いている白装束の集団。

  杖を持ち、杖の上に付いたリングが

  シャリン、シャリンと鳴り響きながら、歩いている。

  飛脚が兄弟の脇を走り抜ける。

  親子の旅人。

  虚無僧が尺八を吹き、歩いている。

  かごを背負ったかご担ぎと行き違う。

 

同 関所 前

  ヤリを持った役人。

  荷物を降ろす兄弟。

  兄弟の手に3文づつお金が置かれる。

 

同 街道

  与平は今にも死にそうな老人に、

与平「ねえ、その荷物重そうだね」

  死にそうな老人は、そっけない態度。

 

  道の脇でしゃがんでいる旅人。

  吾郎は、すばやく旅人に駆け寄る。

  紐を直している旅人。

  そこへ、馬を引いた武士が脇を通る。

  馬の尻尾。

  にやっと笑顔の昭一。

  吾郎は走り、そろりと馬の後ろに回る。

  馬の尻尾をプツリと切る。

  馬は、それに反応して、ヒヒーンと鳴き、暴れる。

  乗っている女はバランスを崩す。

  武士は、馬を落ち着かせる。

  武士が後ろを振り向く。

  吾郎の走るうしろ姿。

 

  紐の切れた旅人のところに行き、

  馬の尻尾の毛を見せる。

吾郎「なあ、この紐丈夫だぜ、馬の尻尾だぜ

 、これで草履を直せばいいよ、10銭だ」

旅人「おい小僧、そりゃ高い、せめて5銭だ

 ろ・・・」

吾郎「いや、10銭だ、それ以上譲れねえ」

旅人「じゃ8文にしとけ」

  といいつつ、袋から8銭を出す。

旅人「ヒイ、フウ、ミー、ヨー、・・あれっ

 5銭しかねーぞ悪い、5銭にしとけ、な」

吾郎「嘘だろ、さっき有るっていったじゃね

 えかよ」

旅人「ないものはない、ほら、この通り」

  といって袋の中身を逆さにする。

  昭一、チェッと舌打ちをする。

 

同 

  旅人の後ろについて、袋の中に手を

  忍ばす与平。

 

街道沿い 大木の陰

  兄弟が座っている。

与平「今日のあがりは・・・」

  袖の下から、真ん中に小銭をばら撒く兄弟。

  ため息をつく昭一。

与平「積もり、積もれば、山となる」

ふじお「うどん食いに行こう」

吾郎「ああ、行くか」

 

合戦場 夜

  うす暗い中、武者たちが、戦っている。

  叫び声と怒号、悲鳴。

 

同 草陰

  合戦の様子を見ている。

  兄弟の近くで、武者同士の決闘が始まる。

  決闘を見ている兄弟。

  一方の武者の突進してきて、もみ合う。

  刀を合わせる、火花が散る。

  刀を激しく合わせているうちに、一方の

  刃が欠けてしまう。

  刃の欠けた武士は、相手を前蹴り。

  刃の欠けた武士は、逃げようとして、

  兄弟の隠れるている前で転ぶ。

  兄弟と目が合う。

  ふじおは思わず叫びそうになる。

  口をふさぐ吾郎。

  刃の欠けた武士は、構わず逃げる。

  一方の武士は、追いかける。  

 

  秋虫の音だけが、真っ暗な静寂の中

  に鳴り響く。

 

  兄弟は、ムクロを転がして、物色している。

  次々とムクロを転がしては、めぼしい物

  を物色している。

ふじお「おい!兄じゃっすごいぞ・・・」

  なんか持っている。

吾郎「このムクロには、まだ有りそうだ」

  兄弟は、ムクロから鎧をはずし、かぶとを取り、

  はだか同然にする。

与平「こいつは、いい身分の奴か」

吾郎「よし、連中が来る前にかたっぱしから

 片付けようぜ」

 

  まだ息のある武士。

  吾郎が棒でつつくと、泥だらけの顔で

  ギロリと見る。

  口で何かを訴えている。

  よく見ると腕がない。

  吾郎は無表情のまま、小刀で武者の首を

  グサリと刺す。

  武者は、安らかな顔で目をつぶる。

  与平とふじおは、無言でその行為を見ている。

 

  ふじおは、大きな、ずだ袋を持ち歩いている。

 

  与平は、高価なものを見つけ、ふところに

  隠す。

 

  シロが、何かに反応している。

  ふじおに足で知らせる。

ふじお(小声)「兄じゃ、だれか来るぞ」

吾郎「くそーもう来やがった、ヤバイ、ずら

 かるぞ」

 

合戦場

  蛍のような明かりが、一つ二つ灯る。

  その数が徐々に増えていく。

  ちょうちんを片手に持ち、盗人村の連中

  が一人、二人と現れる。

  合戦場に無数の提灯の明かりが灯る。

 

  子供を背負った女が、棒でムクロを

  つつきムクロを物色している。

  老婆がムクロを物色している。

 

  ジジイと連れの2人。

ジジイ「おい誰かここに先に来た奴がおりゃ

 せんか」

連れ1「ああそうらしい、めぼしいものは、

 残ってない」

連れ2「くそーどこのどいつだ、チクショウ

 め」

 

同 

  山賊5人衆が立っている。

親分「おい、この合戦には、毛利方の大将の

 弘明がいたはずだ、探せ、探すんだ」

 

  うつぶせのムクロを足で裏返し、

  頭をわしづかみにする。

子分1「違うな」といって無造作に手を離す。

  泥の中に倒れるムクロ。

 

  子分2が、ひとつひとつのムクロの顔を

  持ち上げ、提灯で顔を照らし、半紙の

  似顔絵と見比べる。

  泥の中に倒れるムクロ。

 

  カシラがムクロの顔を持ち上げ、

  提灯で顔を照らし、半紙の似顔絵

  と見比べる。

  泥の中に倒れるムクロ。

  遠く方から子分の声「おーいあったぞ」

  カシラは、声の方向を振り返る。

 

  山賊5人組が見下げるムクロ。

  はだか状態で、身包みがはがされている。

  親分が、半紙の似顔絵と見比べる。

親分「ん・・・間違えねえな。くそー連中に

 先に盗られたな・・・ちぇっ」

  腰から大太刀を抜き、身構える。

  月光に鈍く光る太刀。

  一気に、振り落とす。

  カシラの手に持たれた生首。

 

京の街

  母のおっぱいを飲んでいる赤ん坊。

  兄弟とオトエがめがね橋を歩いている。

  その前から、花魁が来る。

  付人の男が傘を差し、花魁は優雅に

  道路中央を優雅に歩いている。

  人々は、花魁に道を譲り、うっとり見ている。

  与平は、道の中央で固まったように動か

  ない。

  花魁が目の前に来て止まる。

  与平は、見上げる。

  花魁は、にっこりと笑う。

  与平はうっとりして、その場に倒れる。

  昭一とふじおは、倒れた与平を脇に引きずる。

  花魁の後姿。

 

京の街 質屋 店内

  畳の上に、ドサッと戦利品を出す。

店主「おいおいおい、どないしたんや・・・

  えらいぎょうさん持ちこんで・・・」

  店主は、驚いて品々を手に取り、

  丹念に見ている。

  兄弟の自信にあふれた表情。

与平「これくらい、お茶の子さいさいだ」

  兜を上に上げて、

店主「ふーん、なかなかこれはいいものだ」

吾郎「で、どうなんだ、いくら出せるんだ」

店主「まあそうあせらさんな・・・」

  店主は、そろばんを持ち、品々を手に

  取りそろばんを弾いている。

  質屋の外から、太鼓の音が聞こえてくる。

  兄弟は振り向くと、質屋の前に人だかり

  ができている。

  シロは興奮している。

  ふじおとオタエとシロは質屋の外へ出る。

  吾郎と与平はそろばんをジッと見ている。

  店主は、チラチラ兄弟を見ながら、

  そろばんを弾いている。

 

同 質屋 外

  猿が芸をしている。

  人々は、猿を囲んで芸を見ている。

  猿が芸を成功すると、大歓声。人々の

  後ろで背伸びをして見ている

  ふじおとオタエ。

  シロは興奮してワンワンほえる。

  猿が芸を次々と失敗する。

オタエ「シロだめよ・・・おとなしくして」

  コツンと頭をたたく。

  おとなしくなるシロ。

  猿はおびえて、芸をしなくなる。

  人々は、次々と去っていく。

猿回し「ちょっとちょっとお客さん・・・こ

 れからですよ。これからおもしろくなりま

 すよ・・・待ってくだせー」

  残ったのは、ふじおとオタエとシロ。

猿回し「おい、おまえら、なんの恨みがある

 んじゃ、どうしてくれるんじゃ、ワン公の

 せいで、すっかりコイツは怖気ついちまっ

 たじゃねーか、まったく商売あがったりじ

 ゃねーか、どうしてくれるんだよ」

   シロはワンワン吠える。

猿回し「やかましい、ワン公!シッシッ」

 

質屋 店内

  店主がそろばんを弾き終わる。

店主「まあこんなところだ・・・」

  と言って、そろばんを見せる。

  吾郎と与平は、そろばんに顔を近づける。

  お互い顔を見合わせる。

  与平は、そろばんの桁を上げる。

店主「おい、おい、触るんじゃない・・・」

吾郎「ふざけるな、俺たちがどんな苦労して

 ここまで持ってきたと思っているんだ」

与平「俺たちは、命を賭けているんだ、そん

 なはした金で、売れるか」

  店主は困っている顔。

  店主は、そろばんを振って、もう一度

  そろばんを弾く。

店主「じゃ、これでどうだ・・・」

  そろばんを見せる。

  つかさず、そろばんを弾く与平。

店主「それじゃ、こっちが赤字だ」

吾郎「おい、俺たちを馬鹿にしているのか、

 よその店に行こうぜ・・・」

与平「ああそうだな、こんなしみったれた店

 には用はないぜ・・・」

店主「まあまあ待て待て、おまえら、人の足

 元見やがって・・・じゃこれでどうだ」

  そろばんを兄弟の目の前に突きつける。

  吾郎は、そろばんを一つ弾く。

  店主は、やられたという表情。

  吾郎と与平の笑顔。

 

京の街 繁華街

  着物を新調して、こぎれいな兄弟と

  オトエが歩いている。

与平「腹いっぱい食って贅沢しようぜ」

  吾郎、ふじお、オトエの歓声。

吾郎「しかし、京ってのは、極楽みたいだ」

与平「ああ、何でもある」

  路面店では、子供が集まり、おもちゃがある。

  お菓子が山積みされている。

  荷車を押す、牛車。

  手まりをしている少女たち。

  コマをまわし、競い合う少年たち。

  酒を飲んでいる大人たち。

  武士が風を切って2、3人歩いてくる。

  庶民は端によける。

  様々な職業の人たちの往来。

ふじお「兄じゃ、疲れた・・・」

吾郎「よし、ここにしようぜ・・・いいか俺

 たちは、毛利家のセガレだ」

  見上げると、高級そうな佇まいの料亭。

与平「さっ入ろうぜ」

  吾郎と与平を前に店に入る。

 

料亭 京味処 

  のれんをくぐると、番頭が驚いたような        

顔で見る。

番頭「おいおい、おまえら、ここは、おまえ

 らのような奴が来るとこじゃないぞ、さっ

 さとお帰り」

吾郎「お客に向かって失礼じゃねーか」

番頭「お客だと・・・」

与平「無礼な我々は毛利家の子息だ」

  与平は重そうな銭袋を振る。

番頭「はっ・・・」

  与平は、番頭に銭袋の中身をチラリと見せる。

  中身を見た番頭は、驚く。

  態度が急に変わり、もみ手をしながら、

番頭「これは、これは毛利家若旦那様ご一行

 様、大変失礼いたしました。ささこちらへ

 お上がりください」

  新品のぞうりを無造作に脱ぐ兄弟。

 

同 廊下

  女中を前に、廊下を歩く兄弟とオトエ。

  兄弟はキョロキョロしている。

  各部屋から聞こえてくる賑やかな

  歓声と宴会の音。

 

同 中庭

  竹筒のコトンという音。

 

同 廊下

  女中が障子を開ける。

  広い和室の間。

  兄弟の歓声の声。

  4人分の膳。

 

同 部屋 中

  4人は無言で部屋の中を見回したり、

  膳の道具を触ったり、そわそわしている。

  突然、ガラッと障子が開く。

  給仕の女達が次々と料理を運んでくる。

  皆、運ばれてくる料理を覗いたり、

  キョロキョロしている

  見る見るうちに、座敷は料理の山となる。

  料理の山に圧倒される兄弟とオトエ。

  料理が運び終えて、ごくりと生唾をのむ音。

吾郎「さあ、食べよう・・・」

一同「わー」

  一斉に、飢えた野良犬のように食べる兄

  弟。

  ふじおと与平の箸がぶつかる。

与平「俺が先だぞ!」

ふじお「俺が先じゃ!」

吾郎「また注文すりゃいいじゃねーか」

  オトエは、お櫃から次々とご飯を

  兄弟の碗に盛る。

  次々とお代わりの催促をする兄弟。

ふじお「おかわり」

  障子が開き、おひつを3個重ねて

  持って入る女中。

  ふじおの周りには、空になったオヒツが

  積み上げられている。

  吾郎の満足顔。

  与平の満足顔。

  オトエの満足顔。

  ふじおは顔にご飯をつけて、がむしゃら

  に食べている。

  満腹になり、ごろりと横になる一同。

吾郎「腹いっぱいだ・・・」

与平「もう食えん・・・」

  ふじおはゲップをする。と同時に、

  おひつがふじおの上に倒れる。

  バラバラバラおひつに埋もれたふじおは、

  いびきをかいて寝ている。

オトエ「生まれてはじめてだ・・・こんなお

 いしいものを食べたんは・・・」

  兄弟は大の字に寝ている。

 

  番頭が障子を開け、中を覗く。

番頭「若旦那様・・・いかがでしたでしょう

 か?当店のお料理はお口に合いましたでし

 ょうか?」

  お品代と書かれた板を寝ている吾郎の顔

  の前に出す。

与平「銭は、こっちだぜ」

  与平は、袋の中から、お金を畳の上に出す。

  銭を、数える番頭。

与平は、寝ながら見ている。

番頭「はい、これで確かにいただきました。

 ほんにおおきに・・・ごゆるりとおくつろ

 ぎください」

  というと、どそそくさと部屋を出る。

  隣の部屋がにぎやかな歓声。

  吾郎はふすまを少し開けて見てみる。

  半裸の芸者と酔っ払いの男が騒いでいる。

  与平は、上から見ている。

  吾郎と与平はうなづく。

  寝ているふじおに、

与平「ふじお・・・おまえら先に寺に帰ると

 いいシロが待っているし、シロの飯を持っ

 ていけ」

  ふじおはごろりと起きて、

ふじお「シロも腹いっぱい食いたいだろな」

与平「俺たちは、まだ用が残っているから、

 後で帰る・・・」

  キョトンとしているオトエ。

 

京の街 遊郭

  多くの芸者たちが座り、お客に声をかけている。

  多くのお客で賑わう遊郭

  吾郎と与平は、客の中に紛れている。

  芸者たちは、兄弟にからかい半分で声をかける。

  花魁が歩いている。

  与平は花魁を追いかける。

  花魁の入る店を覗く。

付き人「おい、小僧、十年早いんだよ」

与平「あの女はいくらだ」

付き人「おまえのようなガキは、帰って小便

 して寝ろ」

 

同 双子姉妹の窓

  双子姉妹の芸者(双子芸者)が手招きしている。

  昭一は、姉妹に近寄る。

双子芸者姉「若さま、今日はお遊びですか」

吾郎「まあね・・・」

双子芸者妹「かわいいねえ・・・遊んでいき

 ましょ・・・あるんでしょ」

吾郎「まあ・・・」

双子芸者姉「お客さんの入りでーす」

  戸惑う昭一を、強引に手を引く双子芸者。

 

遊郭 

  外から見える部屋で花魁が踊りをしている。

  外から見ている与平は、徐々に顔が

  ほころんでくる。

  下で待っている付き人の親父に、

与平「なあ、あの花魁だけど・・・」

付き人「オマツ奴さんのことか」

与平「ああ、そのオマツさんだ、今夜俺が買いたい」

付き人「はあ?おまえ、金あんか?」

与平「あるよ、見ろ」と言って見せる。

  オマツが階段から下りてくる。

  つかさず付き人が駆け寄ると、オマツの

  耳元で、与平を見てささやく。

オマツ「あらそうなの、私におみそれしたわ

 け・・・あの子が・・・(品定めをするよ

 うな目つき)いいわ、お付き合いしましょ

 う・・・」

  与平は飛び上がらんばかりに喜ぶ。

 

双子芸者の部屋

  双子芸者に囲まれて、酒をお酌

  される吾郎。

  双子芸者に乗せられて、芸者を追い

  かけたり、目隠しされて追いかけたり、

  芸者に抱きついたり、障子にぶつかり、

  障子を壊したりの暴れ放題。

 

オマツの部屋

  三味線をバックに舞うオマツ。

  与平は、オマツの白い肌、首筋、

  を舐めるように見ている。

  女中に酌をさせながら、酒を飲んでいる。

  舞い終えて、与平は拍手をする。

与平「オマツさん一緒に飲みましょう」

オマツ「おおきに、恐れ入ります」

  与平はオマツに酌をする。

  オマツはかるくお辞儀をすると、上品に飲む。

  オマツのうなじを見ている与平。

 

双子芸者の部屋

  薄明かりの部屋で、双子芸者と裸で

  からみ合っている吾郎。

 

オマツの部屋

  与平は、突然オマツを抱き寄せる。 

  オマツの服を乱暴に脱がせる。

  オマツの豊満な胸があらわになり、

  与平は思わず、胸に顔をうずめる。

  オマツのあえぎ。

 

京の街 遊郭 朝

  遊郭の道に、スズメが数羽、

  ピョンピョンはねている。

 

  脇道のゴミ置き場に、ござがある。

  ござがゴソゴソと動く。

ござの下から起き上がる昭一。

  背伸びをして、

吾郎「ああー」

  あれっと周りを見渡す。

  朝もやの中の遊郭

目をこすり、立とうとするが倒れる二日酔い状態。

  思わず、その場にゲロを吐く。

 

同 

  フラフラと朝もやの遊郭を歩く昭一。

  時々、吐き気をもようし、吐く。

 

同 オマツ奴の店 前

  玄関から追い出される与平。

付き人「もうお遊びは終わりだ、もう家に帰

 れ、おっかさんが待っているぞ」

与平「オマツ、オマツさん・・・」

付け人「さあ夢は終わったんだよ、さっさと

 帰りやがれ」

 

同 通り

  遠くから、この光景を見ている昭一。

  千鳥足で与平に近づく。

  昭一は走ろうとするが、足がもつれて倒れる。

 

オマツ奴店 前

  与平は、店の前でくだをまいている。

  店の番頭が、与平に水をかける。

与平「何すんだい・・・」

  与平は、店に向かっていくが、逆に追い出される。

  転んで泥だらけになる着物。

 

同 通り 

  与平が上を見上げると昭一が立っている。

吾郎「やられた・・・」

与平「おう、兄じゃ・・・なにを」

吾郎「持ち金、全部取られた・・・」

与平「あっ・・・」

  与平は、袂を手で探る。

与平「あっ俺もやられた・・・」

  与平は、店に突撃しようとするが、

  吾郎が与平の袖をつかむ。

与平「何をする、兄じゃ」

吾郎「やめとけ、敵う相手じゃねえ、相手は

 百戦錬磨だ」

  与平は悔しそうに、2階を見る。

  2階から、あっかんべーする花魁たち。

与平「ちっしょうー覚えていやがれ・・・」

 

廃寺 中

  ふじおはよだれを垂らして寝ている。

ふじお(寝言)「もう食えない・・・」

  吾郎は、股間を押さえもんどりうっている。

  与平は、寝ながら、天井に描かれている

  仏を見ている。

  仏の絵が、花魁に変り、赤い舌を出して

  変化する。

  脇の弓を天井に向け、射るが外れる。

  チッと舌打ちをしてふて寝する。

 

街道 

  陽気な旅人二人(オギ、ハギ)が軽装で

  歩いている。

  木の陰から兄弟は出てきて、

  オギ、ハギの背後から聞き耳を立て、

  ついてくる兄弟。

  徐々にオギ、ハギとの距離が近づく。

  オギ、ハギが立ち止まったとたん。

  兄弟はオギ、ハギにぶつかる。

  不思議そうに見ているオギ、ハギ。

オギ「おい小僧、なんだってこの広い街道を

 ぶつかるんだか、なあハギさん」

ハギ「おいおい、広い日本そんなに急いでど

 こへ行く・・・」

与平「あのさ、この近くに日本一うまいうど

 ん屋があるんだけど・・・」

オギ「そうかい、ちょうど腹も減ってきたし

 な・・・ハギさん行ってみるかい」

ハギ「そうだな、オギさん行ってみるか、は

 っはははは」

 

うどん屋 外

  うどん屋の前を枯葉の掃除をしているおゆき。

与平「お客さん連れてきたよ」

おゆき「あら、いらっしゃいませ、ささどう

 ぞこちらへ」

  オギ、ハギを店内に案内するおゆき。

 

うどん屋 中

  木にかかれた品を見ているヤジ、キタ

オギ「じゃ俺は、名物きのこうどんだな」

ハギ「おおいいねー、じゃおれも同じもの」

おゆき「おおきに」

  

  うどんを二つ持ってくる

オギ「うまそうだね、おねえちゃん」

おゆき「はい、丹精込めてますから・・・」

  うどんを食べるオギ、ハギ。

  つるつると麺が口に運ばれ、

ハギ「なかなかいいのど越しだね。つゆもな

 かなかいい」

おゆき「お二人さんは、○○峠を越されてき

 たんですか」

  うどんを食べながら

オギ「ああ、あの周辺は、宿の人から気おつ

 けろって言われてな・・・いつ合戦がある

 かも知らないから、巻き添えになるからあ

 ぶねえって言っていたな、なあキタさん」

  店の隅で、オギ、ハギの話に聞き耳を

  立てている兄弟。

  うどんを食べながら、

ハギ「ああ、大殿様がなくなって、二代目は

 まだ合戦の経験が浅い人だから、近くの諸

 大名が、弱り目に祟り目で虎視眈々とねら

 っているんじゃねーの、オギさん」

  楊枝をくわえ、兄弟の方を見るキタ。

与平の背中の弓を見て、

オギ「おい小僧、おまえ弓を使えるのか」

  与平は無言。

オギ「おいちょっと貸してみろ」

  与平はオギに弓を渡す。

  オギは、弓を手に取り、

オギ「なかなか悪くないできばえだなただ、

 もう少し、弓の張りを強くしたほうがいい

 な」

  弓を調整するオギ。

  オギは与平に弓を渡す。

  与平は、弓を引いてみるが、複雑な表情。

与平「じゃあのカキを取ってくれよ」

  指差す方向にうどんや中から、柿一つが見える。

オギ「そらきた・・・」

  カキに狙いを定める。

 

  一匹のスズメ蜂がうどん屋の中に入ってくる。

  兄弟は外に逃げる。

 

  矢を射るオギ。

  矢は、真正面の木に突き刺さる。

 

うどん屋 外

  兄弟が無傷の柿を見上げる。

与平「なんだ・・・おっちゃん大したことね

 えな」

 

うどん屋 中

  オギ、ハギは顔を見合わせ笑っている。

オギ、ハギ「はっはははは」

 

同 洗い場 

  どんぶりを洗っている昭一。

  着物から見える白い足とお尻のライン。

  机を拭いているおゆきをチラチラ見ている。

 

うどん屋 外

  矢を取りにいく与平。

  木に突き刺さった弓を見て驚く。

  スズメ蜂に命中している。

  ハッとして街道を見る。

  二人の姿を追うとするが、姿はすでにない。

  呆然と、矢の先のスズメ蜂を見ている。

 

僧兵寺 外

  少年僧兵のヤリの訓練風景。

  30数人の血気盛んな少年僧兵たちが、

  ヤリを持ち稽古をしている。

  前列の隊が木の人形に向けて、槍で突く。

少年僧兵たち「エイッヤッ」

  ぼろぼろになった木の人形。

和尚「次!」

  次の隊列が代わり、木の人形めがけ、

  ヤリを突く、ヤリの先が木の人形の頭

  のへのへのもへじ(砂袋)に刺さり、

  砂がこぼれる。

 

僧兵寺 道場 中

和尚「はじめ!」

  木刀を持ち、向き合っている少年僧。

  息を飲む緊張感の道場。

  せみの鳴き声がけたたましい。

  一気に攻め込む僧、それを交わす僧。

  お互い互角の戦い。

  道場に木刀のぶつかり合う音が響く。

  勢いのあまり、道場の壁にドスンと倒れる僧。

 

同 外

  ふじおがもちを喉に詰まらせ苦しそう。

  吾郎が、竹の水筒をふじおに渡す。

  ふじおは、ゴクゴク水を飲む。

 

同 中

  両者、息が上がり、苦しそう。

和尚「まだまだ」

  一気に突進する僧。

  相手に踏み込むと同時に、和尚の

  「やめー」という声。

  がくりと膝を落とす敗者の僧。

  汗が床にポタポタと落ちる。

 

同 中同 

  窓から、見ている吾郎。

 

山中 滝

  与平は、滝から落ちる魚を見極めると、

  次々と矢を射る。

  射抜かれたつぎつぎと魚が浮かんでくる。

 

ジジイの家 納屋 中

  ふじおは納屋の中で米俵を担いでいる。

  キョロキョロあたりを見まわすと、

  納屋を出るふじお。

 

山道

  米俵を担ぎ、歩くふじお。

 

ジジイの家 外

  連れ1が外に出て、小便をする。

  納屋が開いているのを見る。

 

同 納屋 中

  連れ1は、納屋を調べる。

  米俵がないことに気づき、地面を見る。

  米粒の落ちている痕跡を見る。

 

山道

  連れ1は、ふじおの後ろ姿を見つける。

連れ1「おのれ・・・待て!」

  ふじおはつまづいて転んでしまう。

  連れ1はふじおに追いつくと、いきなり棒で殴る。

連れ1「この盗人が、盗人から盗むなんてた

 いした野郎じゃ!」

  無抵抗のふじおは何度も棒で殴られる。

 

山道

  かごを背負った昭一。

  争う声を耳にして山道を駆け下りる。

 

  ふじおに駆け寄る昭一。

昭一「ふじお大丈夫か・・・」

ふじお「兄じゃ・・・すまん・・・」

  米俵を担ぎ歩く後ろ姿の連れ1。

  昭一は連れ1の後ろ姿を睨む。

 

同 

  連れ1が振り向く。

連れ1「吾郎やる気か・・・」

吾郎「ゆるさねえ」

連れ1「ガキのくせに・・・おゆきは俺がい

 ただいたぜ、知ってるぜ、おめえがほの字

 だってことくらいはな・・・・おゆきが言

 ってたぞ、いつもいやらしい目つきで、見

 てるって、気持ち悪わりいって・・・」

吾郎「なにくそー」

  吾郎は、連れ1に体当たりをする。

  逆に投げ飛ばされる。

  立ち上がり、草むらに隠れる。

 

けもの道

  足を引きずり、走る昭一。

  追う連れ1。

  徐々に距離が縮まる。

  連れ1の手が昭一に届きそうなった時。

  太い紐が連れ1の両足首にしまる。

  次の瞬間、ピョンと木の上に逆さま吊るされる。

  連れ1の叫び。

  見上げている昭一。

  上から金バラバラが落ちてくる。

連れ1「吾郎こんなことをしたらジジイが許

 さんぞ、俺を下ろすんだ吾郎」

  吾郎は、無表情で見ている。

  落ちている金を拾う。

連れ1「おい、こらー小僧下ろすんだそりゃ

 おらの銭だぞ」

  吾郎は、立ち去る。

連れ1「おい、待て、吾郎待てこら、俺を

  置いてくな、後悔するぞ!」

 

露天風呂

  露天風呂に入っている昭一とふじお。

吾郎「ふじお、痛いか?」

ふじお「兄じゃ・・・すまん」

吾郎「イイって、あの外道」

ふじお「兄じゃの仕掛けは、見事なもんだ」

吾郎「親父から教わったんだよ」

ふじお「ふーん」

 

  (テロップ)

  世はまさに、戦国時代真っ只中。

  覇権主義の勢力争いに、で血で血で

  争う合戦で、日本中、混迷の一途を

  辿っていた。

 

合戦場

  兄弟はムクロの中を物色している。

 

  しゃがんでいる兄弟。

  シロが興奮して足で、ふじおに知らせる。

  ふじおは顔をあげる。

ふじお「兄じゃ、誰か来るぞ」

   木の陰に隠れる兄弟。

 

  山賊5人衆が歩いてくる。

カシラ「若丸はどこだ・・・若丸の首を捜せ、

 おい、てめーら徹底的に探すんだ」

  子分の4人「へーい」

 

同 木の陰

与平「いつみても、むかつく奴らぜ・・・」

 

  兄弟は、ムクロの中を歩いている。

昭一「すでに連中に荒らされた後だな」

  シロがワンワン吠えている。

  地面を掘るような仕草をしている。

ふじお「兄じゃ、こっちじゃ・・・」

  ムクロの下に、別のムクロ(若丸)がある。

  与平と吾郎は身包みをはがす。

  息を吹き返す若。

  与平は、刀をこのムクロののど元に突きつける。

  殺そうとしたとき、

吾郎「待て、殺すな・・・」

与平「なっなんで」

吾郎「首狩りの奴が、探していたのは、こい

 つじゃねーか」

与平「そういや・・・」

吾郎「こいつは金になるかも知れん、とりあ

 えず連れて帰ろうぜ」

与平「でも、村の掟では、ムクロを連れ帰る

 な、災いが起きると言ってる」

吾郎「何が村の掟だ。そもそも俺たちは、村

 のつまはじきだし、構うものか」

 

山道

  兄弟が荷車を引いている。

 

木の陰

  山賊の一人が兄弟を見ている。

  荷車に向かい、走っていく。

 

山道

  思わず、山賊1に振り向く兄弟。

  緊張が走るが、構わず歩く。

山賊1「おい昭一、今日のあがりはどうなん

 だ・・・」

与平「たいしたこたねー」

山賊1「おせーんだよガキども、もうジジイ

 どもが全部かっさらった後だ・・・」

  いきなり、荷車に刀を突き刺す。

吾郎「なにすんだ!」

  山賊1は、刀の穂先を見ている。

  舌打ちをして立ち去る山賊1。

  昭一が袋をめくると、刀の跡が

  若の顔スレスレにある。

 

廃寺 中

  奥の方で、仰向けに寝ている若。

  息が荒く、苦しそう。額には汗。

  うなり声と歪んだ表情。

  そばにオトエが看病している。

  体中傷だらけの若の裸体。

  傷口を切れ端で縛っている。

  血の滲んだ、腹のキズ。

  ビリビリと切れ端を破り、若のキズ口に巻く。

  突然、ハッと目を覚ます若。

若「ここは?」

オトエ「大丈夫、ここは安全だ」

  若は無言。

オトエ「お寺よ、兄じゃたちが、あんたを連

 れてきたんだよ」

  若は安堵の表情を受かべる。

若「わしは生きているのか・・・」

  横を見る若。

 

  吾郎と与平はこそこそ話をしている。

与平「兄じゃ、あいつ何者じゃろな?」

吾郎「さあ・・・とにかくなんか感じるんじ

 ゃ、あいつは只者じゃねーってな、金の匂

 いがプンプンするんじゃ」

与平「そうかー」

吾郎「なんかあるぜ、あいつは、戦利品以上

 のモノなんだよ・・・きっと」

与平「だといいがな、苦労して、ここまで運

 んだんだからな」

  若を見る兄弟。

 

僧兵寺 和尚の部屋

  和尚は、花魁相手に酒を飲んでいる。

  ごきげんな赤ら顔の和尚。

 

僧兵寺 墓場 夕方

  墓の前で手を合わせる若い女

  背後から、少年僧兵が女を襲い木陰に連れ込む。

  猿ぐつわをされた女の着物を強引に引き裂く。

  無言で強姦する少年僧兵。

 

同 木陰

  その光景を見ている昭一。

 

露天風呂

  草を塗りつぶしている少女。

  裸の若の体に草を塗る。

オトエ「この草はね、とても効くんだよ。

  母ちゃんが言ってた」

若「母ちゃんはどうした・・・」

オトエ「死んだ・・・」

 

  猿の親子が風呂に恐る恐る近づく。

  お湯の温度を確かめる猿。

  お湯に浸かる猿の親子。

 

  風呂に入っているふじおと若。

ふじお「山賊に殺されたんじゃ」

若「山賊・・・」

ふじお「ああ、奴らは、なんでも奪うし、

  襲われた村じゃなんも残らない」

若「そうか・・・」

  オトエはうつむいている。

ふじお「奴らには、血も涙もないんじゃ、

  皆やつらを恐れて怯えている」

  若は夜空の星を眺めている。

 

  少女はふじおの背中の傷に塗る。

  思わず、飛び上がるふじお。「痛い!」

   

街道 うどん屋 外

  旅人を見ている昭一。

  ジジイが吾郎に近寄る。

ジジイ「連れを殺ったのは、おまえか?」

吾郎「知らん」

ジジイ「見た奴がおるんじゃ・・・」

  吾郎は無視している。

ジジイ「俺をなめんな、くそガキ」

  ジジイを睨んでいる昭一。

 

  そこへ、連れ2が来る。

  ジジイの耳元で、ささやく連れ2。

  ジジイと連れは、その場を立ち去る。

 

京の質屋 中

  与平と店主が交渉している。

  与平は、袖からモノを出す。

与平「これは、いくらだ」

店主「おっ、どこで手に入れた」

与平「拾ったんだよ」

店主「こりゃ確か五十嵐家の・・・」

  品物を丹念に調べている店主。

 

同 玄関

  質屋の玄関で入れ違いに、ジジイと

  連れ2が入って来る。

  ジジイは不審そうな目つきで、

  与平の後ろ姿を見る。

  店主の脇に置いてある物を見て、

  ハッとするジジイ。

 

僧兵寺 本堂 夜

  寺の本殿の大仏像を見ている吾郎。

  見回りの少年僧兵に見つかる。

  大勢の少年僧兵に囲まれる。

  和尚がきて、

和尚「おまえか、いつもお供え物を盗んでい

 く奴は、こんどは何を盗むつもりだ」

  吾郎は黙っている。

和尚「知らないとでも思っているのか!貧し

 いゆえ、盗むしか生き方を知らないらない

 のか!わしは知っておったんじゃ、おまえ

 ら兄弟そろって盗みにくることを、仏の顔

 も三度までじゃ、いいかご本尊様の前で約

 束するんだ。金輪際盗みはしませんと」

  吾郎は和尚をにらんでいる。

和尚「おまえは、野蛮な猿じゃ」

  吾郎は、和尚につばを吐く。

  和尚は、切れて「カーツッ」というと、

  棒を吾郎の背中を叩く、思わず前

  のめりに倒れる昭一。

 

京の街 遊郭 芸者の部屋

  与平は、豪華な食事を食べている。

  酒を飲み、芸者にじゃれている。

 

寺 本堂 中

  気を失っている昭一

  真っ暗な中、一人取り残されうずくまっている。

  父の声「吾郎、吾郎・・・」

  昭一は目を覚ます。

  

 (幻影)

  父の顔が、暗闇に浮かんでいる。

  父は笑っている。

  笑っているが、序序に悲しそうな顔になる。

 

吾郎「父ちゃん、父ちゃん、どうして泣いて

  いるんだ、どうして泣いていだ」

 

 (幻影)

  父の顔の周りを一匹の

  蚊が飛んでいる。プーン、プーン

  気になっている父の顔。

  やがて額中央に止まり、手でピタッとたたくが逃げる。

  泣いている父の顔。

  また額の中央に蚊が止まり、ピタッと額をたたく。

  手を見て、息を吹きかける。フーッ。

  額中央は赤くなっている。

  額をかいている泣き顔の父。

 

  シロが吾郎の顔を舐めている。

  目を覚ます吾郎。

ふじお「大丈夫か、兄じゃ」

  ゆっくりと起き上がる。

ふじお「兄じゃ、うなされていたぞ」

  起き上がり、本堂を出る吾郎。

  後ろを振り返えり、大仏を見る。

  大仏の穏やかな顔。

 

廃寺 外

  吾郎が寺の外階段で星を眺めている。

  肩をさすり、ため息をつく。

  千鳥足の酔った与平が石階段を登ってくる。

吾郎「おい、与平・・・おめえどこえ行って

 たんだ・・・最近おめえ仕事もしねえで毎

 晩どこほっつき歩ってやがるんだ」

与平「なんだ、兄じゃか・・・」

吾郎「遊ぶ金はどうした?」

与平「へへへ・・・おりゃもうこんな薄汚ね

 ークソみてえな、暮らしはまっぴらごめん

 じゃ」

  吾郎は無言。

与平「兄じゃ・・・へっく・・・今まで何人

 殺した?」

吾郎「俺は、山賊じゃねー殺しはしねえ」

与平「へっどうだか・・・」

吾郎「いいか、俺たちは、盗人だ。殺し屋じ

 ゃねーんだ」

与平「じゃあ、今まで何人殺してきたんかの

 う?人殺しに説教されとうないわ・・・」(しゃっくり)

 

廃寺 山並み 昼

  吾郎がキセルをふかしている後ろ姿。

  背後から、

若「もうずいぶん動けるようになった・・・

 これも昭一のおかげだ・・・恩にきる」

吾郎「で、これからどうする」

若「ん・・・一度国に戻ろうと思う」

吾郎「まだあればの話だな」

  若は遠くを見ている。

 

廃寺 中 夜

  囲炉裏で食事をしている昭一、ふじお、

  オトエ、若。

 

廃寺 石階段

  ジジイと連れ、山賊5人衆。

ジジイ「いいか、もう容赦はしねえ、かまわ

 ねえ、全員たたっきれ」

山賊のカシラ「あんたの指図は受けねえ、私

 念なら勝手にやれ、俺は奴の首さえ手に入

 ればええ」

  憮然とするジジイ。

 

廃寺 中

  シロが吠えている声。

ふじお「シロ、どうした・・・」

  異変に気づいた吾郎は、

吾郎「隠れろ」

  皆、縁の下に隠れる。

 

同 中 真っ暗

  ガラッと引き戸が開く。

  ジジイと山賊が立っている。

山賊のカシラ「若を出せ、出さねえとまとめ

 て、たたっきるぞ・・・」

  とっさに若は外に出ようとする。

  吾郎は若の手を取る。

吾郎「待て、殺されるぞ」

若「奴らの目的は、俺の首だ。おまえらは関

 係ない・・・お前たちは、逃げるんだ」

  というと、一気に山賊の間を抜け、外に出る若。

 

同 外

  若を取り囲む山賊5人衆。

  若は何も持っていない。

カシラ「往生際がいいな若丸・・・

  おまえの首は俺がいただくぜ」

  子分がじわじわと間合いを詰める。

  若の眼光鋭い目つき。

吾郎「受け取れ」

  という声とともに、刀が宙を舞い、

  刀を受け取り、身構える若。

  「えいー」と刀を振り上げ、若に切りか

  かる子分。

  若は身を交わし、返り討ちにする。

  次次と若に切りかかる山賊。

  突然、闇の中から、弓矢が飛んで来て、

  山賊の胸や、急所に命中する。

  次々に倒れる山賊。

  カシラの首に矢が貫通して、苦悶の表情で倒れる。

  後ろから、若に切りかかろうとする山賊。

  その瞬間、ふじおが背を曲げると、

  シロはピョンとジャンプして、山賊の

  腕にがぶりと食いつく。

山賊「痛てーじゃねーか」

  ふじおは山賊に漬物石を投げつける。

  石に当たった山賊は、フラフラと倒れる。

 

同 

  ジジイは、吾郎と向かい合っている。

ジジイ「おまえも親父のように、殺されてえ

 らしいな・・・」

吾郎「なに?」

ジジイ「ああ、冥途のみあげに教えてやるぜ、

 おれが貴様の親父を殺したんだよ・・・お

 まえも親父のように死ね!」

吾郎「この外道、よくも・・・」

  ジジイは、目潰しの砂を投げる。

  吾郎は思わず目を覆う。

  ジジイは刀を振り上げ、吾郎に向かってくる。

オトエ「危ないー」

 

同 

  ジジイの苦痛の表情。

  吾郎は、刀を上に向け、かがんでいる。

  刀は、ジジイの腹から、背中を

  貫通している串刺し。

  昭一は体勢をずらす。

  バタリとジジイが倒れる。

 

同 朝

  すずめが廃寺の縁側を歩いている。

  すずめの歩いた後には、血の跡が残され

ている。

死体の数々。

  すずめが死体の上に乗って鳴いている。

 

廃寺 中

  若が目を覚ます。

  身動きができず、縛られている。

若「おい、なんのつもりだ」

与平「すまん、あんたを○家に渡せば大金が

 入るって聞いてわりーが、○家に差し出す

 ことにした」

若「よせ・・・・つまらんことするな」

吾郎「悪いな、俺たちは、銭が必要なんだ」

若「待て、馬鹿な真似はやめろ。金なら俺が

 いくらでも都合してやる」

与平「どういうこった」

若「まあ、よく聞け。確かに、俺は○家の若

 丸だ。俺には、100万領という領地があ

 る。城は必ずある。城に帰れば、おまえら

 に俺の首にかけられた金の倍を払ってやろ

 う。なっ悪い話じゃないだろ」

  吾郎と与平は顔を見合わせる。

与平「嘘じゃないだろうな、俺たちは馬鹿じ

 ゃないぜ・・・あの合戦で、負けて城も焼

 かれてないんじゃねーの?」

若「城はある、絶対にある・・・」

与平「城がなくなっていたらどうする?」

  若は急に勢いを失い、しょんぼりする。

 

  吾郎は、若の縄をはずす。

吾郎「何も、あんたを信用してるわけじゃな

 いんだ。希望だよ、希望、あることに賭け

 てみようと思う」

与平「そうだな、それもいいかもな、しかし

 なかったら・・・」

若「必ずある・・・」

 

山中 夜

  疲れ果てた亡霊の武者の行列。

  兜の下は、真っ暗で何も見えない。

  腰には、折れた刀。

  紐の取れてバラバラになった鎧。

  足を引きずる亡霊。

  木の棒を杖代わりにして歩いている。

  一人の亡霊が倒れる。

  構わず歩き続ける亡霊。

  ぬかるんだ道を、重い足取りで歩く亡霊たち。

  亡霊の通った後には、わらじの跡がついている。

 

山中 昼

  吾郎、与平、若、オトエが山道を歩いている。

  ふじおは遅れて歩いている。

  山賊の一人が、前から突如現れる。

そして、数人の山賊が、吾郎たちを前後をとり込む。

  緊張が走る吾郎たち。

  与平が弓を持つが、吾郎が制止する。

  山賊に吠えるシロ。

カシラ「おい、どこへ行く」

  一同は、無言。

  カシラは1人1人顔を覗き込むように見る。

  吾郎の顔を見ると、ハッとする。

カシラ「おい小僧、オマエどこの出だ?」

吾郎「知らん・・・」

カシラ「駒次郎ってのしらねーか」

  一瞬驚く昭一。

吾郎「なんでオヤジの名を知ってるんだ」

カシラ「ははは、やっぱりそうか」

吾郎「なんで知っているんだ?」

カシラ「駒とは幼なじみでな」

吾郎「幼なじみ・・・」

カシラ「ああ奴と俺は、似たもの同士でな、

 悪りことばっかしてよ、国から追い出され

 ちまった・・・しかし奴は、腕のいい駒振

 りでな、よく稼がせてもらったな」

吾郎「駒振り?」

カシラ「駒のおかげで大損した奴らが脅して、

 賭博から足を洗ったと聞いたが・・・オメ

 エのようなガキがいるとは夢にも思わなん

 ざ」

吾郎「殺された・・・」

カシラ「駒が殺された・・・」

吾郎「ああ」

カシラ「誰が殺ったんだ」

吾郎「盗人村のジジイだ」

カシラ「あいつか・・・忍び崩れの・・・ちっくそったれが・・・」

吾郎「ジジイは死んだ・・・オラがやった」

   カシラの驚いた顔。

カシラ「オメエなかなかやるな・・・」

(4人を見回しすカシラ)

   若は顔を背ける。

   カシラが若をジロジロ見る。

カシラ「しかしよ・・・ガキを5人も残して

  死んじまうなんて駒も未練だろうな。

  まさかここで駒のガキどもに出くわす

  とは観音様も驚くまい・・・

  これからどこへ行く?」

吾郎「○国に行くんだ」

  カシラは吾郎の地図を見て、

カシラ「おい見せてみろ」

  地図の上をカシラの人差し指が移動している。

  ここだと指差すカシラの手。

 

同  

  雨で洞窟の中で寒さをしのいでいる。

 

同 昼

  吾郎、与平、若、オタエが歩いている。

  遅れて歩くふじお。

  シロは異変に気づき、ワンワンと吠える。

 

  後ろから、大きなクマが現れる。

与平「おーいふじおー逃げろー」

  ふじおが後ろを振り向くと、のそのそと

  近づくクマ。

  必死で逃げるふじお。

 

山頂

  神社の榊が風に揺れている。

  見回すとあたりは山々。

  地図と見比べている昭一。

  

山中

  険しい山道を登る一行。

 

山中 朝

  焚き火を囲んで寝ている一行。

  寝ぼけたふじおが立ち上がる。

  ふらふらと歩き、開けた崖のところに立つ。

  小便を崖の上からする。

  眠い目をこするふじお。

  眼下に見下ろすと村々の煙がある。

  ふじおはまた目をこする。風景が

  ハッキリと見え、遠くにお城が見える。

  小便が止まってしまう。

ふじお「あにじゃー着いたぞ・・・やっとみ

 つけたぞー」

 

山中 焚き火前

  皆、ふじおの声で起きる。

 

山中 崖

  歓喜する一行。

 

村の道

  吾郎の一行が歩いている。

  畑仕事をしている百姓たちが一行を見て、驚く。

  一行の後に付いてくる。

若に次々に挨拶をする百姓たち。

  子供から年寄りまで徐々に増えてくる。

 

城の門 前

  門の前に到着した一行。

  ゆっくりと、門が開く。

  城内の家来たちが整列している。

家来たち「若様、若様、よくぞご無事で」

  老中が若の前に来る。

老中「このたびは、ご生還おめでとうござい

 ます。我々家臣一同は、若丸様のお帰りを

 心より、待ち望んでおりました」

若「この者たちに、助けられたのだ、なあ」

  兄弟は照れている。

老「そうでしたか、それは、それは、ありが

 とうございます」

若「父上は、ご無事か?」

老中「先の合戦で、若丸様の訃報を聞き、持

 病が悪化して臥せておいでです・・・」

 

大殿の間 寝室

  障子を開く若丸。

  つかさず、寝ている大殿の枕元に正座する。

  大殿は静かに寝ている。

若「父上、父上、聞こえますか?私は、戻っ

 てまいりました」

  殿はうっすらと目を開けると、目が大きくなり、

殿「おー若丸おまえなのか、本当におまえな

 のか?」

若「はい、私でございます」

殿「よくぞ、よくぞ、生きて帰られた・・・

 奇跡じゃ・・・」

若「ご心配おかけして申し訳ありませんでし

 た」

大殿「お前の生きている姿を見れるとは・・

 夢ではないのだな」

若「はい、正真正銘、若丸でございます」

  大殿は布団から両手を出して手を合わせる。

  若はその手をしっかりと包む。

 

城 大広間 

  大勢の人々が、若丸の周りに集まり酒を

  注いでいる。

  踊りを披露する者。

  芸を披露する者。

  無礼講状態の大広間。

  与平は無礼講に加わり楽しそうだ。

  ふじおは、ひたすら料理を食べている。

  吾郎は、1人静かに酒を飲んでいる。

  杯に自分の顔が映る。

  

城内 夜

  吾郎とふじおが歩いている。

ふじお「ここには、うめえもんたくさんある

 な」

吾郎「ああそうだな・・・」

ふじお「兄じゃ・・・なんか、うかねえ顔し

 てるな」

吾郎「そうか・・・」

  シロを見つける。

  紐でつながれた、シロが吠えている。

  ふじおは懐から大きな握り飯を出す。

  シロは握り飯を食べる。

ふじお「兄じゃ、ここは別世界だな・・・」

 

それから、半月

 

同 弓道

  的の中央に、弓矢が連続的に刺さる。

  トントントン。

家臣一同「お見事」

  与平が、弓を構えている。

  矢を放つと、中央の矢が全部落ちて、

  最後の矢は、的の中央に命中している。

 

同 広場

  大きな石を持つ競争をしている家臣たち。

  見ているふじお。

  上着をめくり、裸の侍たちが、次々と挑

  戦するが、皆失敗する。

  石がドスンと落ちる。

武士1「お主も挑戦してみるか」

  ふじおは、石を抱えると「えいやっ」と

  一気に持ち上げる。

  見ていた侍は、大歓声。

大柄の武士「お主、やるな、どうだ俺と相撲

 しないか?」

  武士たちは、二人を囲む。

行司の武士「ハッケーヨーイ、ノコッタ」

  ふじおと大柄の武士は、体を組んで、両

  者一歩も引かず互角の戦い。

  そこへ、シロがふじおの足元でじゃれつく。

  一気に侍は、足をかけて、背負い投げで、

  ごろりと地面を転がる。

  シロはふじおにじゃれつく。

行司の武士「それまで!」

 

城内 機織機の部屋

  オトエは機を織っている。

  年寄りの女に教えてもらいながら、

  機を織っている。

  ギーコギーコ、バタンバタン。

  黙々と作業している。

 

城 天守

  吾郎は、遠くの方を見ている。

  山々、川、森が見える。

若「何を見てるんだ」

吾郎「はい、今、城下ではなにが起こってい

 るかと」

若「毛利家と織田家が勢力拡大しているから、

 ちかいうち大きな合戦になるかも知れない

 な・・・」

吾郎「合戦ですか?」

若「我々も、無事では済まされまい。何とか

 して生き残らなければならん」力だけが今

 の世だ。時代は人が作るもの、人がおさめ

 るもの、そこに生きる人々は、時代に翻弄

 されるだけだ・・・」

  吾郎は無言。

遠くの山と山の間から、煙が立ち、登っている。

 

大殿 部屋

  吾郎は、弁士のように、熱弁をふるって

  いる。、

聞いている大殿と妻君。

吾郎「若丸様が敵のツワモノと合間見えたと

 き、若様は堂々としておられました。相手

 は一歩も引かず、一歩、二歩と間合いを詰

 めてまいりました。そして、一気に敵が刀

 を振りかざしました。そのとき、ヒラリと

 身をかわし牛若丸のごとく、返り討ちにし

 たのでございます。その後、弓矢が飛び交

 い、味方は次々と倒れていきました。そし

 て、とうとう若丸様一騎のみとなり、大勢

 の敵に囲まれました若丸様は。飛びかかる

 敵を、バッサバッサと倒しました。しかし

 流石の若丸様も疲労困憊もはや、これまで

 かとご覚悟をされました・・・」

 

  大殿と妻君の真剣に、聞き入る表情。

 

同 

お茶を畳に置くと、大げさなリアクショ

  ンをして、

吾郎「その時、弓の名手の与平は弓矢を敵に

 向け、次々に矢を放ちました。次々と倒れ

 る敵。そして私とふじおも加勢して、止め

 を刺したのです。そうこうするうち、恐れ

 をなした敵は退散したのです。若丸様は深

 い傷を負い、意識を失っておりました。こ

 のままでは死んでしまうと思い、山を越え、

 谷を下り、命からがら、私の国まで連れ帰

 ったのであります・・・」

 

村 道

  馬が疾走する。

  馬に乗っている与平と姫君。

 

大殿 寝室

大殿「ほーそれはそれは、難儀であったのー

 お前たちのようなものが、おったとはなーあ

 りがたいことで・・・」

妻君「あの合戦は、名誉をかけた合戦でした。

 帰った者達は、皆深い傷を負い、本当に苦

 しい戦でした。若君も行方不明。きっと敵

 に首を取られたものと思って参りました。

 毎日毎日涙の日々でした。合戦のムクロと

 なってもはや帰らぬ人とあきらめておりま

 した・・・本当にご苦労様でした」

吾郎「ありがたき、お言葉、私のような身分の

 者には、もったいないお言葉でございます」

 

天守

  吾郎は、天守閣から山々を見ている。

  煙がもくもくと立ち登っている。

  そばに置いてあった、望遠鏡で見る。

  木々の間から、合戦が行われている。

  懐から地図を出し、方角を確かめる。

  興奮して息が荒くなる昭一。

 

山中 合戦場跡 夕

  すでに合戦は終わってる。

  日が暮れた合戦場にはムクロが無数に転がっている。

吾郎「これが生だ、これが死だ・・・俺は生

 きている、死んでいるどっちなんだ?さっ

 きまで生きていたのに、今はムクロになっ

 ている・・・なぜなんだ・・・俺は生きて

 いる、こうして生きている・・」

  ムクロの中で立ちすくむ吾郎。

  吾郎に手招きをする死にかけの武士。

  吾郎は武士に近寄る。

  声を出そうとするが出ない。 

  吾郎が顔を近づけると、武者は昭一の首を絞める。

  吾郎は持っていた刀で武者の胸に突き刺す。

  力尽き、その場にドカッと腰を降ろす。

  次第に雨が降って来る。

  吾郎の目から大粒の涙が落ち、

  我を忘れんばかりに天に向かって、

  おお泣きをする。

 

城 大殿の寝室

  殿の顔には、白い布がかけてある。

 

僧兵寺 中

  僧侶がお経を読んでいる。

  大勢の家臣たちが寺の中にいる。

  中央には、若丸と母、そして、妹二人がそろっている。

  一番後ろには、兄弟とオトエ。

 

僧兵寺 中

  一人一人、お焼香をする。

  家臣たち、最後に兄弟もお焼香をする。

  一人の僧が兄弟を見て、隣の僧に耳打ちをする。

  疑惑の眼が兄弟に注がれる。

 

僧兵寺 中

  葬儀が終了し、兄弟が帰ろうとするとき、背後から、

和尚「お主ら、知っているぞ、おまえらを知

 っているぞ」

  兄弟は後ろを振り向く。

  和尚と少年僧兵が取り囲んでいる。

和尚「覚えているぞ、盗人の小僧だな、おま

 えら、まんまと●家に紛れ込み、またなに

 か盗もうという魂胆だな・・・ここでなに

 を企んでいる」

  兄弟は和尚をにらみつけている。

吾郎「お和尚さん、なにを勘違いしているの

 ですか?なにを言っているのかさっぱりわ

 からん・・・」

和尚「ほーしらを切るつもりか?盗人猛々し

 い、とはまさにこのことだな」

  少年僧達は笑っている。

吾郎「勝手な人違いは、無礼じゃないか」

和尚「ほーこれはこれは、ずいぶんと偉くな

 ったもんだな・・・」

  僧兵たちの冷笑。

  にらみ合う僧兵たちと、兄弟。

  そこへ、分け入るように、若が来る。

  和尚を見て、

若「なにか不都合でも」

和尚「はは・・・いや若丸様・・・ちょとよ

 く似た者を知っておりまして・・・」

若「そうか、じゃこれで・・・」

   若はその場を立ち去る。

和尚「おぬしら、いつか罰当たると思え、こ

 の罰あたりどもが」

吾郎「おまえらのような、なまくら坊主に言

 われる筋合いはない・・・」

  と言い、悠々と歩く兄弟。

  和尚と僧兵たちは、兄弟たちをにらんで

  いる。

 

城 兄弟の寝室

  ロウソクの炎がゆれている

吾郎「俺は行く」

与平「どこへ、行くんじゃ」

吾郎「当てはない・・・」

与平「この城に、何不自由ない生活がある。

 何が不満なんだ」

吾郎「何も・・・」

与平「じゃどうして?どこへ帰るんじゃ」

吾郎「俺は決めたんだ、あの死者どもの中に

 俺の行くところは地獄なのさ、地獄が一番

 俺には合っている。地獄が一番住みやすい

 のさ・・・」

与平「俺は、ごめんだ地獄なんてまっぴらご

 めんだ。俺は極楽に行くんだ。もうあんな

 地獄は嫌だ。俺はここに残る。俺はここに

 残ってまともな人間になるんだ」

  うつむいているふじお。 

与平「ふじお、おまえだって、不自由なく、

 飢え死になることなく、腹いっぱい食える

 生活のほうがいいだろ」

  うつむいているふじお。

吾郎「ふじお、何も考えることはないおまえ

 は、ここにいろ、ここにいてたくさんの子

 供を育て立派な武士になれ」

  与平に向かって、

吾郎「与平、おまえさんにゃいろいろ世話に

 なった。おまえのその弓の腕を生かし、天

 下をとって、皆を驚かすんだ」

オトエに向かって、

吾郎「オトエはいい嫁さんになって元気な子

 供を産むんだ」

オトエ「でも、兄じゃ・・・死ぬかもしれな

 いよ・・・」

吾郎「人間いつかは、死ぬんだ。それが合戦

 場なのか、山なのか、座敷なのか誰にもわ

 からねえ、たぶん俺みてえな山賊には、薄

 汚い棺おけが待っているんだよ」

与平「ついていけねーな、どこでどう変っち

 まったんだか・・・そんなんじゃ兄じゃ幸

 せになんかなれないぜ・・・」

吾郎「俺は、死んでいるも同然なんだ。俺は

 生きる屍なんだ。そう自覚したんだ」

与平「チェッなに気取ってんだか。兄じゃは、

 なにを考えているのかさっぱりわからねえ

 なっふじお・・・」

  ふじおは正座をして振るえている。

  ふじおのヒザに大粒の涙がポタリと落ちる。

吾郎「皆、達者でな・・・生きていたら今生

 で会おうな・・・」

  与平は、立ち上がると憮然として部屋を出る。

 

同 早朝

  昭一の布団が畳まれてある。

 

城門 前

  昭一の城を出て行く後ろ姿。

  門が徐々に閉まる。

 

村 道 朝

  薄暗い朝もやの中を歩く昭一。

  畑仕事に行く、百姓とすれ違う。

   

天守

  若が遠くを見ている。

  吾郎の米粒ほどの大きさが見える。

若「吾郎は、地獄へ帰るんだな・・・」

  与平が横にいる。

与平「はい、兄じゃは、もうここへは、二度

 と戻らんでしょう・・・一度決めたことは

 とことんやり抜く、そういう馬鹿な男なん

 です。馬鹿な男・・・」

  階段をドタドタと登る音がする。

  天守閣に登ってきたのは、ふじおとオトエ。

ふじお「兄じゃがいない・・・兄じゃがいな

 い・・・」

与平「落ち着け、ふじお。兄じゃはもう帰ら

 ん」

ふじお「帰らんってどこぞに行った?」

  若丸はふじおに望遠鏡を渡し、指を刺す。

ふじお「あああ兄じゃ・・・なんで・・・な

 んでなんで、嫌じゃ・・嫌じゃ・・」

  というといきなり、ドタトダと階段を降りる。

 

城 兄弟の寝室 

  ふじおは、身の回りの物を急いで

  適当にふろしきにつめる。

  遠くから、シロがワンワン吠える鳴き声。

 

城 門

  大きな荷車が行き交っている。

  ふろしきを持ったふじおが荷車を

  避けながら、城の外に出る。

 

天守閣 頂上

与平「ふじおーふじおー馬鹿な真似はよせー

 戻るんだー戻れーふじおー戻れーばかやろ

 ーなんで行くんだー帰ってこーい、ふじお

 ー帰れー」

  若と与平はふじおを見ている。

 

村 道 

  走るふじおの苦しそうな顔。

ふじお「兄じゃ・・・兄じゃ・・・兄じゃ」

 

城 中

  オトエが、吠えているシロに近づく。

オトエ「おまえも、行きたいんだろ・・・」

  オトエは、シロの首縄を外す。

  シロは猛スピードでダッシュする。

 

城 門 

  荷車が立ち往生している。

  荷車から、荷物が落ちて、門をふさいでいる。

  そこへ、猛ダッシュするシロ。

  荷物の間をピョンピョンとはねると

  わずかな隙間から門の外に出る。

 

村 道  

  二股の道で昭一は地図を取り出し、

  場所を確認している。

  遠くから、ふじおの声「兄じゃー兄じゃー・・」

  振り向くと、ふじおが走ってくる。 

  昭一に追いつくと、昭一の前にひざまずく。

  呼吸が荒い。

ふじお「兄じゃ・・・兄じゃ・・・俺も行く、

 俺も行きたい、兄じゃと一緒に・・・」

  昭一は、腰を下ろす。

吾郎「ふじお、わかってるのか?いま、城へ

 帰ることはできる・・・・まだ間に合う」

ふじお「いや・・・俺も兄じゃと一緒に地獄

 へ帰るんじゃ・・・」

吾郎「ふじお・・・俺は、もうここには戻ら

 んぞ、俺の行くところは地獄、帰るところ

 は地獄なんだぞ・・・それでもいいのかふ

 じお・・・」

ふじお「ああ兄じゃと一緒なら、地獄も極楽

 じゃ」

  昭一は無言。

  遠くから、吠えて走ってくるシロ。

ふじお「ああ・・・忘れてた・・・」

  シロは、ふじおに飛びつき嬉しそうに

  尻尾を振っている。

  昭一はシロの頭をなでて、

吾郎「シロ・・・お前も行きたいのか?地獄

 へ・・・」

  シロはワンワンと答える。

吾郎「そうか、そうか、かわいい奴」

  腰を上げ、土を払う昭一とふじお。

吾郎「さあ行くぞ、ふじお、シロ」

ふじお「おー」

  シロはワンワンと吠える。

  兄弟の後ろ姿。

  朝日が昇ってくる。

  兄弟は笑っている。

  昭一のふろしき包み。

  ジャラジャラという音がする。

  ふじおの笑顔。 

  吾郎の笑顔。

 

山中 夜

  焚き火を囲んでいる吾郎とふじお。

  火を見つめている吾郎の顔。

  吾郎は無言で火を棒でつついている。

  寝ていたシロがすくっと起き上がる。

  シロは、寝ているふじおを起こす。

ふじお「兄じゃ・・・」

  吾郎は無言でうなずき、火を消す。

  遠くから、ザワザワという音がする。

  徐々にザワザワという音が近づいてくる。

  シロはおとなしくしている。

 

山中 山道

  泥だらけのわらじを履いた足。

  次々と歩いている泥だらけの足。

  足が木の根につまづき転ぶ。

  転んだのは、年寄りで、苦痛とも苦悩と 

  いえるような顔をしている。

  老人は疲れつき、目を閉じる。

  老人をまたいで歩く人々は、疲れきった

  感じで歩いている。

  子供の手を引いて歩く女。

  ふろしき包みを担いでいる男。

  杖を片手に歩く老人。

 

同 藪の中

  藪の中から、人々が去っていく光景を見て 

  いる光景を見ている、吾郎とふじお。

ふじお「ありゃ、襲ってくださいといわんば 

 かりじゃな」  

吾郎「武器も何もねえ、あんな無防備じゃ、

 いつなんどき盗賊に襲われて、殺される・・」

ふじお「行くとこ、あるんじゃろうか?」

吾郎「さあな・・・行くあてのない地獄」

 

山中 朝

  朝日が昇る光景。

 

同 山道 

  吾郎とふじおとシロが歩いている。

  遠くからほら貝の音が聞こえる。

  

同 滝

  山伏たちが滝に打たれている。

 

廃寺の階段下

ふじお「着いたぜ」

吾郎「いく年、いく月たったか・・・あるん  

 じゃろうか?」

  シロは、先に一気に駆け上る。

  吾郎が階段を上るにつれ、廃寺の屋根が  

  見えてくる。

  上から、シロがほえている。

  徐々に廃寺の全景が見える。

  ふじおは歓喜を上げ、

ふじお「おー兄じゃ、あったぜよ」

吾郎「ふじお、俺たちの城だ・・・」

  二人は手を取り、喜ぶ。

 

廃寺 内

  真っ暗な中、だが、隙間から光が漏れている。

  大きく光が射す。

  戸がガタガタと開く。

  吾郎とふじおが立っている。

ふじお「おお、何も変わっちゃいねえ」

  吾郎は、天井を見たり、壁を見たり、床

  を跳ねたりしている。  

吾郎「やっぱり、ここが一番落ち着くな」

ふじお「ああ俺たちの城じゃ・・・」

  外の絶景の風景を、呆然と見ている兄弟。  

 

同 夜

  藁を引いて、寝ている兄弟。

  いびきをかいて、寝ている兄弟。

  小さな音がコトッという音がする。

  シロがムクッと起き上がる。

  ふじおの顔をなめるシロ。

  ふじおは寝ぼけている。

  シロは足でふじおの顔を叩く。

  ふじおは、ジャマくさそうにシロを払い

  のける。

  思わずキャンと鳴くシロ。

  その音に目覚める吾郎。

吾郎「シロ・・・どうした・・・」

  シロはなにか、言いたそうに動作する。

  シロは外に出る。

吾郎「シロ、待て、どこへ行くんだ」

  吾郎は、提灯と刀を携え

  外に出る。

  シロは寺の裏手の小屋の前。

  吾郎は耳を小屋の壁に当てる。

  がさごそという音が聞こえる。

  吾郎は一瞬、ハッとなり身構える。

  鋭く満月に輝く日本刀。

  吾郎は一気に小屋の戸を蹴る。

  すると戸は壊れ、シロはほえている。

  若い女(さとえ)の声で、キャッと叫ぶ

  声。

  暗闇の中で、さとえは哀願する。

さとえ「どうか、どうか・・・」

  吾郎は提灯を声のするほうに向ける。

  提灯の明かりに照らされ、震えているさ

  とえ。  

吾郎「誰なんじゃ?」

さとえ「どうか、どうか、ご勘弁を・・・」

吾郎「なにもしねーよ」

さとえ「ご勘弁を・・・」

吾郎(怒って)「なにもしねーってんだろ」

さとえ「ご勘弁を・・・ご勘弁を・・・」

吾郎「おらは今、疲れている、誰だか知らねーが、

 ここは、おれのうちじゃ、勝手に住み

 着きやがってそんでもねー野郎だぜ・・・

さとえ「ご勘弁を・・・どうぞご勘弁を・・・」

  闇の中でうろたえるさとえ。

吾郎「勝手にしろ、わしに、殺されないうち

 ココを出ていけ」

  と言い放ち、吾郎は小屋を出る。

 

廃寺 縁側 昼 

  キセルを吸っている吾郎。

  遠い山々が煙でかすむ。

  ふーっと一息つくと、

吾郎「おい、ふじお・・・ちょっと用を頼ま

 れてくれ」

  ふじおの手に銅銭を渡す。

  ふじおとシロは、階段を下りて姿を消す。

  五郎はキセルの灰を捨て、腰を上げる。

  

 

小屋 外

  小屋に歩いていく。

  小屋の前に立ち、壊れて立てかけている

  戸を叩く。

吾郎「いるのか?いないのか?」

  何の反応もない。

  戸をずらし、小屋の中に入る。

  

小屋 中

  生活用品が置いてあるが、女の姿はない。 

  物が乱雑に置いてある。

  吾郎は少し語気を強め、

吾郎「おい!隠れてるんなら、ぶっ殺すぞ」

  その拍子に、ガタッという音がする。

  音がした方に近寄り、刀で身構える。

  刀で空を切るとビュンという鋭い音がする。

  刀で藁を一気に取る。

  藁の中でさとえが震えている。

さとえ「どうか・・・どうか・・・」

  さとえは、身を小さくして震えている。

  顔を手で覆い隠している。

  言葉にならないような声で哀願している。

  吾郎は、乱暴にさとえを引きづり出す。

  それでも、顔を抑えているさとえ。

さとえ「どうか・・・どうか・・・お助けください

 なんでもいたしますから・・・命だけは・・・」

  吾郎は強引にさとえを押さえつけ、そし  

  て、顔を覆っている手を無理矢理とる。

  さとえは、美しくしかった。しかし全盲だった。  

さとえ「お願げえします。乱暴はしないでく

 だせい・・・お願げえします・・・」

  吾郎は無言でさとえを見ている。

 

廃寺 中

  シマヘビが這っている。

 

小屋 中

  吾郎はいきなり、さとえの胸をあらわに

  する。

吾郎「おとなしくしてりゃ痛くしね」

  吾郎は乱暴にさとえの服を脱がす。

  さとえは少し抵抗するも、吾郎の力  

  に負けてしまう。

  全裸のさとえの上で腰を振る吾郎。

  片手には、刀を持っている。

  行為が終わり、さとえの首に刀を

  突きつける。

  さとえは、死んだように動かない。

  さとえの目から涙がこぼれ落ちる。

吾郎「覚悟はええな・・・なんで昨夜

 のうちに出ていかなんだ?」

さとえ「(泣きながら)帰るとこはねーん

 です。私には何もねーんです」

  吾郎は、じっとさとえを見ている。

吾郎「覚悟はええな・・・」

  さとえはコクリとうなずく。

  吾郎は刀をさとえの腹をなぞり、刀を振 

  り上げる。

  さとえは何も反応しない。

吾郎「やー」と大声を張り上げる。

  さとえは何も反応しない。

  刀を脇に置き、さとえから離れる。

  放心したように座っている吾郎。




  それから、数年後・・・



     

賭博場 中

  サイコロを振る吾郎。

  脇に、ふじおがいる。

   その光景を見ている山賊のカシラ  

吾郎「さあさあ張った張った」

  大勢のお客が札を置いていく。

吾郎「どなたさんもようござんすね、

 しぶろくの兆」

  がやがやする賭博場。

  ふじおは負け札を回収する。

  ほっかぶりした、がっしりした若い男 

  (寂然)が、眼をぎらつかせている。

  寂然が思い切りドンと床を叩く。

  皆一斉に寂然を見る。

  手元の札を懐に戻す。

  吾郎は上目使いで見ている。

  寂然は颯爽と、外へ出て行く。 

 

賭博場 外

  雷がとどろく。

  

廃寺 内

  無言で鍋を食べている吾郎とふじお。

  さとえは、わらじを編んでいる。

ふじお「あの怒れ野郎、どこのどいつなんじ

 ゃろうな・・・あの銭どこから持ってく

 るんじゃろ」

吾郎「かまうもんか・・・おらにとっちゃえ

 えカモだ」  

  芋を食べながら、

ふじお「なんで、あいついつもほっかぶりし 

 てるんじゃろ」  

吾郎「訳ありだな。あいつをもっと負けさして、

 どうなるか楽しみじゃの・・・」

  吾郎とふじおは大笑い。

  

僧兵寺 本殿 深夜

  大きな大仏。

  黒い人影が、賽銭箱の鍵を開けている。

  

廃寺 内

  さとえは吾郎に寄り添うように寝ている。

 

廃寺 外

  晩秋の虫の音が聞こえる。

 

とある村 昼

  怒号とともに、村人とほっかぶりをした

  僧兵が武士を相手に戦っている。

  武士が数人の村人に囲まれている。

  そして、四方八方から串刺しにされる。

  僧兵が武士を投げ飛ばし、トドメの

  一撃を加える。

  武士が多くの村人を、つぎつぎに切って行く。

  逃げ惑う村人たち。

  一人の村人が天を仰いで息絶える。

  村のあちこちから、煙が上る。

  累々たる屍の山。

  仁王立ちしている寂然。

  刀から血がしたたり落ちる。ポタリ・・・



僧兵寺 道場 内

  多くの僧侶が座っている。

管主「先日の戦において、我が宗派は

 多大なる健闘をしたということで、

 大僧正様から、お褒めの言葉をいただいた」

 僧兵達は、お互いを見て歓声を上げる。

管主「しかし、まだ終わったわけじゃない、

 本当の戦はこれからじゃ、我々は宗派の

 教えを守り、これを庶民に普及し、極楽浄土

 へ導くのが我が宗派の理念なる。したがって、

 我々は、命を投げ打ってでも、弾圧し、攻撃

 してくる、織田軍に制裁を加えなければならん。

 これは聖戦であるぞ」

 

  祭壇のろうそく、が激しく揺れる。

 

管守「皆の者・・・次の攻撃に備え、鍛錬を

 おこたるではないぞ。いいか特に前線隊

 の要である寂然、よいかお前は、先頭に

 たち皆のものを率いていかなければならん。

 気を引き締めていけ」

  寂然の厳しい顔

管主「では・・・持ち場に戻れ」

管主「寂然っ」

 寂然は管主の元へ行く。

管主「寂然、わしが知らんとでも思って

 おるのか?昼といい、夜といい、どこで

 何をしているか知っておるぞ・・・」

  寂然の青ざめた表情。

管主「本来なら、厳しく罰して、牢に入れる

 ところだ。しかし今は戦で、それどころではない。

 よいか今度、同じ過ちをしたらワシが

 お前の息の根を止める」

  寂連はビックと身震いをする。




賭博場

  借金が多額になり、返せなくなったものには、

  吾郎は兵役という

  手段で金を稼ごうと画策した。




賭博場 内

  吾郎とふじおと青年が座している。

  逃げ出そうとする若い男。

  捕らえるふじお。

  暴れている若い男。ふじおは簡単に

  力づくでこの男をねじ伏せる。

吾郎「おい、借金を返す約束じゃねえのか」

若い男「頼む、後2日待ってくんな、

 必ず倍にして返すからよ」

吾郎(怒って)「ふざけんな!何度その

 寝言を聞いたか・・・約束は約束だ。

 指を詰めるしかねえな・・・」

若い男「それだけは頼む・・・やめてくれ・・・」

  ふじおが懐から刀を出す。

吾郎「指をつめるのと、借金を肩に

 俺の仲間になるか・・・選べ」

若い男「ああ・・・おめえさんの仲間になるよ・・・

 なんでもするよ」

吾郎「あい、わかった、おめえさんも

 話には聞いてると思うが、俺の組は、

 体に印をつけさせてもらう」

 

  青年の指を刃物に押し付けると 

  名前の跡に血印を押す。

  吾郎は、火鉢から、焼印を出す。

  若い男は、おびえて逃げ出そうとする。

  ふじおともう一人の男が、はがっちりと

  両脇を抱え、青年は身動きができない。

  吾郎は無言で若い男の背中に焼印を押す。

  叫ぶ青年。

 

合戦場

  青年の背中に焼印が押されてある。

  刀を持ち、百姓一揆たちに向かっていく。

  後に続く吾郎の浪人たち。

  その後に、鎧を着た武士たちが走っていく。

  百姓一揆を蹴散らす、吾郎の浪人たち。

  浪人たちは百姓一揆を蹴散らす。

  辺りは、百姓の死体。

  悠々としている浪人たち。

  林の中から、弓が飛んでくる。

  退散する浪人たち。

 

とある城内 の一室

  吾郎の前に、小判がある。

 

合戦場

  吾郎、ふじおは叫んでいる。

  向かってくる百姓を、次々に蹴散らす浪人たち。

 

とある城内の一室

  吾郎の前に、饅頭がある。

  吾郎は饅頭を取り、下をめくると小判がある。

 

合戦場

  僧兵たちと戦っている浪人たち。

  浪人たちは苦戦している。



ふじお「兄じゃ・・・連中は強いぞ・・・このままでは

 皆殺しにされちまう」

吾郎「あいわかった・・・退散じゃ・・・・

  ふじおはほら貝を吹いた。

  浪人たちは、一斉に退散する。

  僧兵たちの勝利の雄たけび。

  寂然がいる。

 

ある城の座敷

  深々と頭を垂れている吾郎。

  頭を上げる。

  殿様が目の前に鎮座している。

家老「今回は、ご苦労であった。これは褒美じゃ」

  家老は、吾郎に投げる。

  吾郎は、それを拾い、中を確かめる。

吾郎「はは確かに・・・」

家老「ところで吾郎、おまえんところの

 浪人たちの活躍は我が殿も

 賞賛している」

吾郎「ありがたき幸せ・・・」

家老「じゃがな、百姓一揆は蹴散ら

 せても、その後ろにおる僧兵寺の

 僧兵が厄介じゃ・・・なかなかの

 テダレ揃いで、我がほうも手こずって

 おるのじゃ・・・それでじゃ、僧兵寺を

 壊滅させることができれば、今の倍の報酬、

 いやそれ以上の褒美をしよう。さらにお前に

 領主として領地を授けよう・・・どうじゃ」

吾郎「はっは、めっそうもないお言葉、

 ありがとうございます・・・必ずや、

  僧兵寺を壊滅させて見せます」

 

廃寺 内

  負傷した浪人が大勢いる。

  手当てをしているさとえと、小さな娘(まりえ)

  が手当てをしている。

ふじお「兄じゃ、これからどうする?

 このありさまじゃ、戦は無理じゃ・・・」

吾郎「ああ・・・わかってる」

  多数の死傷者を見まわして、

吾郎「おいてめーら、よく聞け、よく

 戦ってくれた、今回の報酬は、つけ

 が終わった奴には報酬を出す。

 しかし、おめえらには、まだ戦ってもら

 わなくっちゃなんねえ」

 

賭博場 内

吾郎「さあ貼った、貼った」

  お客は、次々と札を前に出す。

  ふじおが肩で合図をする。

吾郎「よう、ござんすね。ぞろめの半」

  頭を抱えている変装した寂然。

  にんまりしている吾郎。

  突然、寂然は賭博場の戸を開け逃げる。

  外で待ち構える浪人たち。

  寂然は、浪人を次々と投げ飛ばす。

  上から、網が寂然にかかる。

  身動き取れない寂然に長い棒で

  取り押さえる。

  吾郎に刀を突きつけられ、身動きが

  取れない寂然。

吾郎「おい、おめえ、名はなんと言う」

  寂連は吾郎をにらんでいる。

  寂連ののど元に、刀が突きつけられる。

吾郎「もう一度聞く。名はなんと言う」

  のど元に刀の先端があたり、血がにじみ出る。

寂然「じゃ、じゃくれん」

吾郎「ほお・・・坊主か?どこの寺だ」

  のど元から血が流れている。

寂然「僧兵寺」

吾郎「こりゃおもしれい・・・ご立派な坊さん

  が賭け事に女遊びか・・・はっははは」

  浪人たちは笑っている。

寂然「頼む、金を返してくれ・・・頼む・・・」

吾郎「寝言、言ってんじゃねーぞ」

寂然「あの金は、あの金は・・・」

吾郎「知るか!キレイな金だろうと、

 キタネエ金だろうと知ったことか!

 借金を返せねーんなら、それ相当な

 仕事をしてもらう・・・それがここ掟だ・・・」

 

僧兵寺 夕方

  剣道場に大勢の僧兵がいる。

 

僧兵寺 部屋

  管主と体格のいい僧兵(岳燃)がいる。

管主「おい岳然、寂然の姿を見なかったか」

岳然「はい、見かけません」

管主「あの野郎、どこほっつき歩いて

 るんだ。今度で何度目じゃ

 仕事を投げ出して、なにをして

 いるんだ」

岳然「すみません、私の監督不足で・・・」

 管主は岳燃を殴る。

 よろける岳燃。

 管主は苦々しくしている。

 

賭博場 内

  両脇を抱えられ、焼印を押される寂然。

  叫ぶ寂然。

  証文には寂然の血印がある。

  気を失って倒れている寂然。




民家 外 夜 

  明かりがついている。

 

民家 内

  囲炉裏を囲んで、浪人とその

  家族が食事をしている。

  笑い声が絶えない食卓。

 

民家 風呂場

  湯に浸かっている浪人

 

同 風呂場 外

  火を起している女。

 

温泉

  湯に浸かっている浪人たち。

 

廃寺 外

  酒盛りをしている浪人たち。

  いのしし一頭が火にかけられている。




廃寺 内 昼

  寂然が寝ている。看病しているまりえ。

 

廃寺 外

浪人たちが、おもいおもいに稽古をしている。

 

廃寺 内

  隙間から浪人たちを見ている病床の寂然。

吾郎は寂然の耳元で、

吾郎「よう、寂然さんよあいつらにちょっと

 稽古つけてくんねえか・・・うちの連中が

 おめえさんによく似た僧兵を合戦場で

 見たって言ってるんだよ・・・」

寂然「稽古?」

吾郎「ああ、確かおめえさんの借金は

 200文いや、それ以上あるんだぜ、

 そこんとこをよく覚えていやがれ」

寂然「なっなに・・・200文だと」

吾郎「ああ・・・逃げ出しても無駄だぜ」

  寂連は吾郎をにらみ、起き上がろうとするが

  めまいがして、まりえに抱きかかえられる。

  

 

  ワンワンとシロが吠えている。

  廃寺の戸をガラッと開く。

ふじお(大声で)「兄じゃ兄じゃ大変だ大変だ・・・」

吾郎「どうした?」

ふじお「よへい兄がよへい兄が・・・」

吾郎「よへいがなんじゃ」

ふじお「若と一緒に・・・」

  外から若の声で、「吾郎どんはおるか?」

  吾郎ははっとして、表に出る。

  浪人に囲まれた、若とよへいが立っている。

  吾郎とふじおとシロが二人にかけよる。

  シロがよへいにじゃれ、ほえる。

  吾郎とふじおは若の元に歩く。

 

吾郎「若君・・・お元気でしたか?」

  若と与平は馬を下りる。

若「ああ元気だとも・・・おめえさんの噂は

 かねがね聞いとるぞ」

吾郎「めっそうもございません」

よへい「兄じゃ元気じゃったか」

吾郎「ああ元気じゃ・・・おめえさんは今や、

 若君の右腕らしいな・・・」

若君「よへいの弓に勝てる奴は

 この国にはおらんで、まったく、よう働いて

 くれる、おかげで我が藩の領地も広がる

 一方じゃ・・・ははははは」

 

  廃寺からさとえとまりえが見ている。

 

吾郎「それはそれは・・・ささ中に何も

 ねえですけど・・・」

  隠れて見ているまりとさとえ。

吾郎「おい、さと、さっさと茶の準備をせんか」

さとえ「はい、ただいま・・・」

  まりえはさとえを案内して歩いていく。

  4人は歩きながら、

よへい「おい兄じゃ、あれは・・・」

 

吾郎「あああれは、女ぼと娘じゃ・・・

 あいつは戦で目をつぶされてな・・・

 そうじゃ、オタエは元気か・・・」

与平「ああオタエなら、5人の子を持って

 いいおっかさんになっとるがな・・・」

吾郎「あい、そうか・・・それはよかった」

 

廃寺 内

  吾郎、ふじお、若、よへいは

  笑って話をしてる。

  吾郎は若に酒をついでいる。

若「ところで、ここに来た理由じゃが・・・」

 吾郎は、酔ったふりをしながら眼光は鋭い。

若「今度の戦では、なにがなんでも勝た

 なきゃいかんのだ。一国一城を争う決戦

 になるだろう。今度の敵は、織田信長じゃ

 奴は化け物じゃ・・・戦術もさることながら

 織田の武士たちは、命知らずと来ている。

 織田はこのわしに、戦わずして同盟を結ぶか

 それとも逆らうか、二者択一を迫られている

 わしは、歴史あるこの国をみすみすと織田に

 渡すわけにはまいらん・・・吾郎どん・・・

 力を借りてえ、だから、ここに来た一刻の

 猶予もなんねえ」

  吾郎は腕組みをして考えている。

吾郎「若君・・・まあそんなとこじゃねえ

 かなと、わかっておりやした。

 この浪人たちの活躍は知っての

 通り、訓練されたツワモノぞろいに

 ございます」

若「ううん、吾郎のとこの浪人たち

 は命知らずので、恐れられているからな」

吾郎「めっそうもない・・・」

  与平が木箱を差し出す。

  そして、刀で木箱を開ける。

  

廃寺 外

  割れ目から、中を覗いている浪人たち。

 

  木箱の中には、山ほど小判が入っている。

  吾郎とふじおは顔を見合わせる。

吾郎「承知いたしやした」

よへい「兄じゃは抜け目ねえな・・・」

吾郎「おめえほどじゃねえよ」

  皆笑っている。

 

廃寺 外 階段下

  若と与平は馬にまたがる。

若「じゃあ・・・またな・・・」

与平「兄じゃ・・・健闘を祈る・・・」

吾郎「若殿、お体に気おつけて・・・

 与平・・・元気で・・・また逢おう」

 二人を乗せた馬は走り去る。

 足軽が馬を追いかけていく。



廃寺 前

浪人たちは、バラバラに集まっている。

寂然「おい貴様ら、死にてえのか?

 死にたくなけりゃ俺についてこい」

  一人の浪人がムックと立ちあり、 

  寂連に向かって行く。

  簡単に交わし、一撃を加える。

  失神する浪人。

  それを見た浪人たちが、寂然を取り囲む。

寂然「やめとけ・・・痛い目に会うぞ」

浪人「なにおー」

  寂然の刀裁きで次々倒される浪人たち。

  ある者は、拳でみぞおちを殴られ、

  その場に倒れる。

  ある者は、足を蹴られ、その場に

  しゃがみ込む。

  ある者は、ともえ投げで、木にぶつかる。

  ある者は、二人がかりで挑むが、

  寂連は身をこなすと

  二人はお互い頭突きをして、その場に倒れる。

  全員のたうち回っている。

  吾郎とまりえが見ている。

寂然「どうした・・・さっきの勢いは、どんだけ

 おまえら殺してきた連中は武器を持たない

 百姓か・・・おまえらの悪名など高々こんな

 もんだぜ・・・本物の武士と戦ったら、おめえ

 たちは全員、あの世行きだよ・・・」

  浪人の悔しそうな表情。

  のた打ち回る浪人が吾郎を見る。

吾郎「おいてめえら、金がほしけりゃ、言うとおりに

 するんだ・・・まだ逆らう奴は今度は真剣勝負して

 もらう。次は容赦しねえからな・・・」

  浪人たちは、腰があがらない。













戦場

  ほっかぶりをした寂然が百姓と戦っている。

  次々に殺傷していく。

  そこへ、僧兵が来る。

  僧兵は、寂然に刀を向けるが

  寂然は逃げる。

  僧兵は寂連を追う。

  木の陰に隠れる寂然。

  数人の僧兵が寂燃を探す。

  一人の僧兵に見つかり、

  そうへいは殺そうとする。次の瞬間、

  寂然の刀が先に僧兵を突き刺す。

  バタリと倒れる僧兵。

  二人に囲まれる寂然。

そうへい1「おのれ・・・何者じゃおぬし

 ・・・僧を殺すとは、地獄に堕ちろ」

 

  突風が吹き、ほっかぶりの取れた寂然。

僧兵「おお前は、寂然」

寂然「おおそうとも・・・ワシはもう僧じゃない、

 ワシは汚らわしい獣じゃ、ワシに向かって

 くれば切る」

僧兵1「寂然、おまえ気を違えたか」

寂然「なんとでも言うがいい」

  僧兵は一気に寂然に向かっていく。

  刀から火花が飛ぶ。

  寂然の刀が僧兵の腹に入る。

  僧兵は寂然にしがみつき

  息絶える。

 

  寂然は僧兵に抱きつき、

寂然「(泣きわめく)許せ、許せ、オレを

 許してくれ・・・オレを許してくれ」

 

然の家

  まりえが待っている。

  戸を開けると、まりえに抱きつく寂然。                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  

 

廃寺 外

  廃寺の周りの家々。

  子供たちが廃寺を走り回っている。

 

廃寺 庭

  竹割りの練習をしている浪人たち。

 

  宙に浮いた棒を叩いている。

 

  寂連が刀裁きの練習を浪人相手に

  デモンストレーションしている。

  真剣に見ているろうにんたち

 

向かい合っている浪人。

女、子供たちが囲んで試合を見ている。

カンカンと木刀をぶつける。

一方の浪人が石につまづく。

相手の浪人が一気に来ると、

倒れた浪人が砂を相手の顔にかける。

ひるむ相手の浪人。

そのスキに胴に木刀を入れる。

寂連「それまで・・・」

浪人たちは笑っている。

負けた浪人「ちくしょう・・・おめえ卑怯だぞ・・・」

寂連「戦に卑怯もなにもあったもん

 じゃねえ、自分が生き残る・・・

 それだけじゃ。弱気になったら相手は

 そのスキをに一気に殺しに来る・・・

 勝ち残るただそれだけじゃ?」

  まりえが竹筒を寂連に渡す。

寂連「おおきに・・・」

  水を飲み干す寂連の喉仏。

  見つめているまりえ。

 

吾郎「皆、ご苦労。おかげで、一揆軍の

 百姓どもをけちらし、僧兵寺の連中を

 相当な被害を与えた」

  ふじおは袋を持ち上げる。

ふじお「報酬の金だ、取りに来い」

  一斉に、ふじおに駆け寄る浪人ども。

 

然の家

  まりえはいろりの火を見つめている。

  突然、どんどんという音がする。

  つっかえぼうを取る。

  なだれ込むように寂然が入ってくる。

  血に染めた顔と衣服。

  まりえを抱きしめる。

 

廃寺 階段

階段を走って上る一人の飛脚。

 

廃寺 内

  吾郎は、巻物を広げる。

  吾郎の神妙な顔。

ふじお「兄じゃ、とうとう来たのか・・・」

  吾郎は軽くうなずく。

ふじお「しかし、今度の敵は、勢いのある

 織田じゃろ、あの信長という奴は、途方

 もなく知略家らしいな・・・」

吾郎「ああ今度の敵は少々手強いだろうな、

 だからとって、ここで手を引いたら若との

 契約を裏切ることになる」

 

同 夜

さとえ「なあおめえさま・・・今度の戦は嫌な

 予感がするんだ」

  吾郎はキセルをふかし、黙って聞いている。

さとえ「夢でみたんよ・・」

  吾郎はピクリと反応する。

吾郎「じゃなんだってかい、俺が死ぬとでも

 いうのかい?」

さとえ「そういうことじゃねえ」

吾郎「わしは悪運が強い・・・昔からな・・・

 安心しろ・・・」

 

ふじおの家

  子供たち3人がふじおの背中に乗っている。

  シロ子供たちの遊びの中に参加している。

 

廃寺 朝

  広場に雀がいる。

 

ふじおの家

  ふじおが身支度をしている。

  ふじおの妻が握り飯を渡す。

ふじおの妻「あんた・・・もう戦はこれで終わりにし

 とくれよ。吾郎どんにいっとくれよ・・・」

ふじお「ああ兄じゃは、これが、まくひきだと

 いっておった」

  ふじおは子供の寝ている姿を振り返る。

ふじお「じゃ、おてい、しばし留守にするぞ」

おてい「達者で・・・」

 

寂連の家

  寂連は足袋を履いている。

まりえ「あんた・・・おたっしゃで・・・」

  寂連は軽くうなづいて、見つめ合い、抱きしめる。

寂連「じゃあ・・・行ってくる」

  まりえは火打ち石をカンカンとあわせる。

 

吾郎の陣

  丸ご旗がはためいている。

吾郎「よいか、皆これが最後の戦いと

 思い、覚悟せよ。いつもそう言ってきた。

 乱世の生き抜くには、力しかない、俺たちは、

 はみ出しモノじゃ、しかし今こうして戦に

 参加して、手柄を立てれば、下級侍として

 めしかかえるという約束を交わした」

  吾郎は、懐から巻物を出す。 

  浪人どもは、おおっという歓声がわき起こる。

吾郎「俺たちは、身分相応に扱われ、武士として

 生きていけるんだ」

  浪人ども、は歓喜の声を上げる。

  隣のふじおが耳打ちする

  吾郎は不適な笑いを浮かべる。

  寂連は、表情一つ変えない。

 

戦場

  信長軍の鉄砲隊から火花が出る。

  次々と鉄砲の前に倒れる若の軍。

  よへいは弓矢で次々と信長の

  武士を射止める。

 

信長の陣地

  次々に矢に倒れる武士。

 

同 山の茂み

  吾郎の軍が信長軍の鉄砲隊

  を見ている。

吾郎「おい寂連、お主にまかせたぞ・・・信長の

 首を討ち取るんだ」

  寂連は厳しい目つき。

 

  山を徐々に下る、吾郎の浪人ども。

  岩陰に隠れる浪人ども。

  陣地の奥に、信長らしき人物が立って、陣頭指揮

  をしている。



同 夜

  松明の炎。

  信長の陣地に松明がたかれ明るい。

  松明の炎がバチバチと音を立て、パンと弾ける音。

  遠くの山で狼煙が上がる。

  寂連と浪人どもは信長の陣地になだれ込む。

  不意をつかれた信長軍は浪人どもに次々と倒される。

寂連「(叫ぶ)信長はどこじゃ、信長はどこじゃ」

 信長と側近は目の前から逃げる。

  寂連は追おうとするが、敵に阻まれる。

  突然、鉄砲の音が鳴り響くと

  浪人どもは次々と倒れる。

  鉄砲で足を撃たれる寂連。

  信長軍と互角に戦う浪人たち

  鉄砲に次々と撃たれる浪人たち

  足を引きづりながら、

寂連「退散しろ!退散だ!」

  逃げまどう浪人どもと寂連。

  逃げ惑う浪人どもを、次々と斬る信長軍。

 

同 林の中

  若とよへい、数人の武将が走っている。

  後方から、敵の矢がビュンビュン飛んでくる。

  よへいが逃げながら、矢を放つ。

 

同 

  敵の武将が矢に当たり倒れる。

 

よへい「若殿・・・ここは私にお任せください・・・」

  若は、振り向き一瞬立ち止まる。

  よへいと向き合う若。

  他の武士に手を引かれる。

若(大声)「すまんよへい・・・許せ・・・」

 

同 スローモーション

  よへいは背中の矢包みを探るすると、

  1本しかない。ハッとするよへい。

  矢を見つめ、岩陰から身を乗り出し、身構える。

  目の前に数人の武将が立っている。

  慌てて刀を持ち変えるが、

  後方からの敵の刃に倒れる。

  よへいを見下ろしている信長の武士たち。

  息を引き取るよへい。

  信長の武士たちが走り去る。

 

同 川沿い

  寂連と数人の浪人どもは、息が激しい。

  寂連は仲間に支えられている。

  前方に、いっそうの船がある。

 

同 林の中 夜

  満月が夜空に輝いている。

  鈴虫が葉の上で鳴いている。

  鎧が月に反射している。

  若を中心に座になっている武将たち。

武将1「若君、もはやこれまで・・・」

武将2「若君、ご決断を・・・」

武将3「無念です・・・」

若「うむ、皆の者、いままでご苦労であった・・・」

 

同 川沿い

  寂連と数人の浪人どもが歩いる。

  吾郎とふじおが立っている。

 

同 船上

ふじお「おーいここだ、ここだあ」

吾郎「ふじお、静かに・・・」

  ふじおは大きな身振りをしている。

 

同 川沿い

  寂連の疲れ果てた顔。

 

同 船上

吾郎(感慨深い)「寂連・・・」

 

同 林の中 夜

  武将たちのムクロの数々。

  木の上で、フクロウが鳴いている。ホーホーホー

 

廃寺村

  吾郎、ふじお、寂連と浪人どもが呆然と立っている。

  見渡す限り、家が黒こげになっている。

  皆、自分の家に走って行く。

 

  真っ黒焦げの家

  悲痛な叫び声をあげる浪人1。

浪人1「きね・・・おいっきね・・」

  家捜しする。

  がれきの下敷きになり、死んでいるきね。

  きねのムクロを抱きしめる。

 

  ふじおが走る。

  柱だけの家。

  がれきの家に入るふじお。

  土間に、うつ伏せになって倒れている妻と、そばで

  死んでいる3人の子供のムクロ。

  ふじおは呆然とする。

 

廃寺 階段

  吾郎は階段を登る。

  村全体の家々が燃え尽き、煙が燻っている光景

  唖然とする吾郎。

 

廃寺 

  跡形もなく、がれきと化し、がれき

  の中を歩く吾郎。ふと立ち止まり叫ぶ。

吾郎(叫び)「さとえ・・・さとえはどこじゃ・・・」

  風が強くなり、灰が舞っている。

  思わず、顔を覆う。

 

温泉場

  寝ているシロ。

  ふと何かを感じ、鼻をクンクンさせ、ムクと

  起き上がると。

  一気に山を駆け上る。

 

廃寺村 広場

  浪人どもは途方にくれて、円になって

  座り込んでいる。

  吾郎と寂連の沈痛な表情。

  ふじおは、大泣きしている。

  慰めている寂連。

 

  ワンワンとシロが走って来る。

  皆一斉に振り返る。

  シロはふじおに向かって走ってくる。

ふじお「シロ・・・無事じゃったのか・・・」

  シロはワンワンと吠え、ふじおに飛びつく。

ふじお「シロ・・・シロ・・・無事でよかったな・・・」

吾郎「シロ・・・お前は強運の犬よのお」

  ふじおはシロを抱きしめる。

寂連「シロは、今までどこにおったんじゃ・・・」

  寂連と吾郎は顔を見合わせる。

  吾郎は思いついたように、

吾郎「そうか・・・シロ案内せい」

  シロはワンワンと吠える。

 

  山を越え、谷を下る一行

  けもの道から見える湯気

 

温泉場

  粗末な小屋の中に、廃寺村から

  難を逃れた女、子供がいる。

 

  道なき道を吾郎、ふじお、寂連他

  多数が歩いている。

 

温泉場

  まりえがさとえの手を引き、

  小屋の中から出てくる。

寂連「まりえ!」

  寂連とまりえは走って抱き合おう。

  小屋の中から、女子供が出てきて、

  それぞれの浪人たちと

  喜びを分かち合う。

  一番後から、出てくる妻。

  吾郎は妻に駆け寄り、抱きしめる。

吾郎「よかった無事で・・・よかった・・・」

妻「おまえさんも無事で何よりで・・・」

  雨がシトシトと降ってくる。

 

  吾郎はまりえに向かって、

吾郎「なにがあったんじゃ」

まりえ「そうへいと一揆の百姓がいきなり襲って来た

 のです・・・村の女、子供は殺され、命からがら

 ここまで逃げてきました・・・」

吾郎「なにを・・・あのそうへい寺の連中か?」

  まりえはこくりとうなずく。

寂連(土下座して)「吾郎どんすまん・・・すべて俺

 が寺に恨みをかったせいで・・・すまん・・・俺が

 仲間を裏切った・・・その報いゃ・・・」

吾郎「そうじゃねえ・・・そうへい寺のかんしゅとは

 まえから因縁があってな、いずれ決着をつけなあかん

 と思っていた・・・それがこんな形になるとは・・・」

 

  一同沈痛な表情と無言。

ふじお「兄じゃもう帰るとこはねえ・・・」

吾郎「ああ・・・」

  吾郎は夜空を見上げ、雨に濡れる顔。

 

  刃物を燻っている。

  血だらけの寂連の足。

  まりえは、燻った刃物で寂連の傷を切り裂く。

  寂連は口に手ぬぐいを巻いて苦痛に歪んでいる。

  寂連の足から弾丸が数個取り出す。

  寂連は失神しそうに呼吸が荒い。

  まりえ「これで薬草を塗っておけば・・・」

  患部に薬草を塗り、手ぬぐいで患部を巻きつける。

 

温泉場

  暗い小屋の中で皆それぞれいる。

吾郎「おい皆、ここも安全とはいえねえ、いずれ

  ここはばれるだろう、だからここで解散しよう」

  うつむいている傷ついた浪人たち。

浪人3「それはいいが、金はどうすんじゃ金は・・」

浪人4「そうじゃとも、俺たちはあんたに借金を片に

取られ、今まで戦ってきたんじゃ・・・」

浪人5「それなのに、今更金も払えねえ、解散とは・・・」

浪人6「そない、いい加減な男とはしらなんざ」

浪人7「払うもんは払ってもらう」

  吾郎とふじおは厳しい表情

  浪人たちが、それぞれ勝手な言い分を押し付けてくる。

  寂連は黙って目を閉じている。

  吾郎は立ち上がると、

吾郎「あいわかった、今手元にあるのはこれだけだ」

  といって懐からバラバラと金ばら撒く。

  一気に飛びつく浪人たち。

ふじお「待て、待て慌てるな」ふじおがそれを制する。

吾郎「この配分は、寂連にまかせよう」

  寂連の方を見て、

吾郎「寂連、戦の働き具合に応じて金を分配してくれ」

  寂連は顔を上げ、大きく深呼吸をする。

  浪人たちはお互い戸惑って顔を見合わせている。

 

  浪人たちが真横に一列に座っている。

  浪人の不安と期待の顔。

  寂連は、ゆっくりと浪人の前を歩く。

  そして、寂連の足が止まる。

  金をカチカチ鳴らし、数枚の金が浪人の前

  に落ちる。

  浪人は数枚の反射的に取る。

  次の浪人の顔は自信満々。

  チャラリと膝元に落ちる。

  それをみた浪人は、

浪人3「寂連さんそりゃないでしょ・・・そりゃ・・・」

寂連「文句言うなら、一文も出さん」

  浪人3はしぶしぶ金を懐に入れる。

  次の浪人の前。

  一枚の金が膝元に落ちる。

浪人5「たったこれだけ・・・」

  浪人たちはお互いにひそひそ話している。

  最後の浪人の膝元。

  皆より多い金が落ちる。

  それを見た浪人たちのどよめき。

 

廃寺 

  数人の浪人が廃寺の残骸を調べている。

  棒でがれきを避け、穴を掘っている。

 

草陰

  草陰が揺れている。

  大勢の槍を持った農民たち。

  向かいの仲間と合図をする。

  一気に数人の浪人めがけ、叫びながら

  突進していく農民たち

  不意を突かれた浪人たちは、次々と槍に

  餌食になる。

  断末魔をあげる浪人。

 

山道

  歩いている吾郎の一行。

  寂連は足を引きづっている。

  寂連を支えるまりえ。

  遠くから、ピーという笛の音。

 

  突然、百姓一揆の連中に囲まれる。

  シロが吠え、緊張が走る。

吾郎「おまえさんたちなんの用だね」

百姓1「しらばっくれんなよ・・・廃寺のもんだろ・・・」

吾郎「わしたちは、おまえさんらと同じ百姓じゃ」

  百姓たちはお互い顔を見合わす。

  寂連がよろけて倒れる。

  寂連の脇から、血の付いた刀が見える。

  百姓は顔を見合わせる。

  百姓たちは一斉に、声を荒げ襲ってくる。

  吾郎とふじおは、百姓と応戦する。

  ふじおと吾郎は、次々と百姓たちをなぎ倒す。

  じりじりと追いつめられ、百姓たちと対峙する。

  吾郎を差し置いて、ふじおが敵の前に立つ。

ふじお「兄じゃ・・・先に行け・・・後から合流する

 ・・・兄じゃ(笑)」

吾郎「ふじお・・・必ず来いよ。あの場所に・・・必ず・・・」

  ふじおはコクリと笑うようにうなずく。

  そして、ふじおは敵のまっただ中に入ると、 

  次々に敵をなぎ倒す。

  シロも敵の足をくらいつく。

  その隙に百姓を斬っていく。

 

日本海の海

  夫婦岩に松明が組んである。

 

断崖絶壁

吾郎「とうとうここが、行き止まりだな・・・どこへ

 逃げても、いつか見つかる」

  寂連はまりえを気遣っている。

  吾郎は手で日差しをつくり、ぐるりと海を見渡す。

吾郎「(独り言)夫婦岩の3本松、観音堂の朱色の

 仏様あな尊きかな尊きかな・・・」

寂連「それは・・・」

吾郎「たぶんここが、おらの親父のふるさとじゃ・・・」

寂連「なにもない」

吾郎「ああ・・・なんもねえ。なんもねえから人もいねえ、

好都合じゃねえか」

 

朱色の観音堂 前

吾郎たち一行。

吾郎「ここじゃ・・・確かに」

 

  赤い塗料が剥げた粗末な、観音堂

  岩にしっかりと押さえつけられ、観音堂の脇には

  風除けの防風林がある。

  観音堂の裏には、大きな岩がある。

 

父との記憶

  岩に登る子供の吾郎。

  父と母が心配そうに見ている。

  吾郎は途中で笑顔で答え手を振る。

  吾郎は岩の頂点にたどり着き、全景を見渡す。

  山々、海、カモメ、砂浜。

 

  断崖絶壁に吾郎、さとえ、寂連、

  まりえが並んで立っている。

 

  ドス黒い空と荒れ狂う海。

 

吾郎「また1からやるんじゃ・・・

 なにも無くなった・・・おれたちゃなにもねえ

 無一文だ・・・死ぬのも地獄、生きるのも地獄・・・

 なあ、そうじゃねえか」

寂連「ああ・・・」

吾郎「新し命がまりえに授かったのも、

 ワシの宝じゃ」まりえは、まぶしそうに

 吾郎を見る。

さとえ「あんた・・・」

  さとえは吾郎の手をしっかりとつかむ。