飲む点滴液それが、ポカリスエットという天才

ポカリスエット開発のきっかけ。
「これまでにない画期的な飲料をつくりたい!」
研究員たちは、日々、新製品の開発に
燃えていました。

そんなある日、ひとりの研究員が
「これを飲み物にできないかな」と
言って、みんなの前で点滴液を差し出しました。

「点滴液の飲み物!?」仲間たちは、
びっくりしたけれど興味津々。
その研究員とは社内で「味の天才」と
呼ばれ、大ヒット商品『オロナミンC』
などの生みの親の技術部長でした。

「じつはメキシコ出張で…」彼は、
その時のことを話し始めました。

「新しい飲料開発のため、メキシコに
熱帯果実の視察へ行ったんだけど、
水事情の悪さからお腹をこわして
現地で入院したんだ。その時、
医者は激しい下痢で弱っているボクに、
炭酸飲料を手渡しながら
『体内の水分と栄養が失われているから、
とにかく水分を飲んで、後で栄養も
摂るように』と言ったんだ。

その時、ひらめいたんだ!
『こんな時、ゴクゴク飲みながら
栄養も一緒に補給できる飲み物が
あればいいのに』ってね。

それと、手術を終えた医者が、
栄養補給に点滴液を飲むのを
見たことがあって…。
ねえ、どうかな?点滴液の味を改良した
飲料をつくってみない?」

「飲む点滴液」
そのアイデアにみんな胸が高鳴りました。
だって点滴液の製造は自分たちの得意分野。
そして、彼らは製品のコンセプトと
時代のニーズが合うタイミングを
じっと待つのでした。

偶然から生まれた、摩訶不思議な
『汗の飲料』。
画期的なアイデアから3年後。
世の中は健康志向になり、
ジョギングがブーム。
「開発するなら今だ!」
研究員たちはついに開発をスタートしました。

しかも、点滴液の改良ではなく、
それまで世の中になかった
『汗の飲料』として。

なぜ『汗の飲料』なのか?

実は、汗をかいて失われるのは
水分と電解質。つまり、
失われた汗の成分を手軽に補給できる
飲み物があればヒットすると考えたのです。
また、たくさんの人に飲んで
もらえるようにと、スポーツ飲料ではなく
日常生活の中で飲む健康飲料を
目指したのでした。

研究してわかったのは、
汗には種類があること。
日常における汗の塩分濃度はスポーツの
後よりも低い。
そこで日常の汗の成分を再現して
試作したものの、苦くてあまり
おいしくありませんでした。

「成分を変えずに苦みを消し、
しかも甘みを抑えた、のどごしの
良い味とは…」

それから、試行錯誤が続き、
2年の歳月が経ちました。

試作品が1000種類を超えた頃、
研究室では『汗の飲料』と
『柑橘系粉末ジュース』の試飲が
行われていました。

しかし、どちらもなんだかまずい…。

その時、社長が「出来そこない同士、
混ぜたら面白いのでは?」と、
混ぜて飲んでみるとこれがおいしい!
研究員たちも次々と混ぜ出し
「苦みが消えている!」
「柑橘系のおいしい苦みが汗の飲料の
嫌な苦みを隠したのかな!」
こうして偶然の発見から、
『汗の飲料』の開発は大きく前進したのでした。

『汗の飲料』開発のカギは、汗にあり。
研究も進み、数多くの試作品の中から、
糖質濃度の薄いタイプと濃いタイプの
2つに絞り込まれていました。

この2つのうち、研究員たちがおいしいと
思ったのが濃いタイプ。

薄いタイプは「物足りない」「健康飲料でも、
この甘さでは満足できないのでは」
とみんなの意見は一致。
でも、技術部長だけは納得していませんでした。

数日後、技術部長は研究員たちを
連れて山に登りました。
山頂に到着するとリュックから
2本の水筒を取り出し、
「これはこの前、研究室で飲んだ
試作品なんだけど、どっちがおいしいと思う?」と

研究員たちに試飲をさせました。
「薄いほうが飲みやすい」
「濃いのは甘すぎる」
「薄いほうがゴクゴク飲めて、
滑らかにのどを通る」

つまり、全員が薄いタイプをおいしいと
感じたのです。
「でも、なぜ?」。

不思議がる研究員たちに技術部長は
その理由を教えました。

「汗をかいた時は、糖質量が少ないほうが
さっぱりしておいしいと感じるんだよ。
開発しているのは『汗の飲料』。
だから、汗をかいた時においしいと
感じることが大事なんだ」

ところが、その試作品を初めて
飲んだ社員たちは、「はっきり言ってまずい」
「これじゃあ売れない」と大反対。
それでも、社長は「汗をかいた後に飲めば、
きっと理解してもらえるはず」
と自分の味覚と直感を信じて
発売を決断したのでした。

ネーミングには、『汗の飲料』という
開発コンセプトが伝わりやすいように
“スエット”を用い、さわやかな青空を
彷彿させる音の響と語呂の良さから
“ポカリ”をプラスして
ポカリスエット』に決定。

ところが、あとで調べてみると、
“ポカリ”にはこの飲料にふさわしい意味が
あったのです。

“ポカリ”はネパール語で“湖”。
ネパールには“ポカリ”の多い“ポカラ”
という地名があり、その“ポカラ”には
聖なる山として崇められている
ヒマラヤ山系の水が流れ込んでいました。

水が天地からいただいた万物の命で
あるように、ポカリスエット
からだに大切な水分であってほしい。

ネーミングと社員の思いとが、
ぴったりと重なったのでした。

歩いて配って3000万本!!!
1980年4月、汗の飲料は『ポカリスエット
として発売。
営業マンや社員を総動員して販売店を回りました。
しかし、「こんな味で本当に売れるのか」と、
なかなか店頭に置いてもらえません。

そこでイベント会場でお客様に
直接販売してみても、「味が薄い」
「これでお金を取るの?」と不満の声が続出。
中には、「こんなもの飲ませてふざけるな!」と
飲みかけを営業マンにかける客も。
「どうすれば売れるのか」
「やっぱり味が悪いのか」
営業マンたちは途方に暮れてしまいました。

そこで、「サンプリング(試飲)無制限!」
という大きな賭けに出たのです。

飲んでもらって説明すれば、
きっと理解してもらえる。今、大事なのは
製品を売ることよりも、製品コンセプトを
伝えることなんだ。

そして、おいしいと感じてもらえる、
あらゆる場所でサンプリングを開始。
ある営業マンは野球場に出向き
少年野球の選手へ。

また、ある営業マンはサウナの脱衣所で待ち、
汗をかいた人に。
町中では買い物袋を抱えて汗をかく主婦にも。

もちろん商品の説明は忘れないで。
配布本数は初年度だけで、
なんと3000万本。

その頃にはたくさんの人に「おいしい」と
認められるまでに。

それでも、その後も地道にサンプリングを
続けたのでした。

発売から2年目の夏。
ポカリスエット』はついに爆発的な大ヒット、
努力が結実したのでした。

そして、誕生から30年以上。

今では世界20カ国・地域で愛される
ロングセラーブランドとなったのです。

今や世界のポカリエットですが、大塚製薬さんの
ズレない商品コンセプトは、脱帽しますね。
こういう熱気があるからこそ、新商品が売れる
のでしょう。

いままでになかった、飲む点滴は、当時は
誰だって???でした。「点滴を飲む?」
とはその発想すらなかった。

それを飲料として開発するには、時間と研究
と苦労がありました。

いまやブランドとしての地位を築いています。
この後、コカコーラ社とか飲料メーカーは、
こぞって似たような商品を開発しましたが、
やはり本家本元のポカリスエットに敵う
アイソトニックドリンクはありません。

水よりもからだに浸透する水
それがポカリスエットなのです。

最後までありがとうございました。